婚カチュ。
2 ◇ ◇ ◇
長い指の先がとんとんとテーブルを叩く。表情から少しいらだった様子が窺えるけれど、たぶん無意識だろう。
「それで二ノ宮さん」
指を止めて、広瀬さんは机の上の資料からわたしに目を移した。黒いフレームのメガネが蛍光灯の光を反射する。
「なにが気に入らなかったんですか?」
「気に入らなかった、というか」
ふつうなら狭い部屋で顔のきれいな男と向き合って座っていれば自然と心がときめくものだ。でも広瀬さんはそんないじらしい乙女心を鋼鉄の無表情で跳ね返す。
「今回のお相手、杉下光彦さん、37歳、総合商社勤務。年収、容姿、性格すべてにおいて二ノ宮さんの条件をクリアしていた稀有な人なんですが」
「ええ、とても素敵な人でした…………後頭部以外は」
「は? 後頭部?」
形のいい眉がしわを刻み、わたしはうつむいた。
「後頭部が……その、淡泊って言うか、控えめっていうか、あっさりっていうか」
つかの間、ふたりのあいだに沈黙が降りる。わたしは両手をひざの上で握りしめた。広瀬さんの冷めた目に耐えるため、全身に力をこめる。