婚カチュ。


まだ恋をしているわけじゃない。
 

そう言おうとしたわたしに、桜田さんはふたたび耳打ちをした。

「ダメよ、彼は」
 

ふっ、と耳に吐息をかけられてわたしは肩をすくめた。
桜田さんは薄く笑ってスタッフルームを一瞥した。
 

会員がアドバイザーに手を出してはいけない。

つまりそういうことだと理解したわたしに、彼女は思いがけないことを言った。



「アレはね、わたしのモノなの」


「え……?」
 


桜田さんはネイルが施された華奢な小指を自らの唇に当て、ちゅっとキスの仕草を見せた。


「そういうことだから、悪いけど、智也くんのことはあきらめてね」




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