揺れて恋は美しく
二つ目の照明が美沙目掛けて落ちて来る。だが当の本人はそれに気付かず、猪突猛進に向かって来る瀬野から目を離せないでいた。

「美沙ー!!」

「えっ!」

瀬野の叫び声に驚き目を見開く美沙に、瀬野がドラムを踏み台にして飛び掛かり、それとほぼ同時に照明が落ちて来た。

「美沙!」

ルカが声を上げて美沙の元へと駆ける。由依はその場に崩れ、玲美は冷静な目でそれを見届けていた。
間一髪難を逃れ、美沙に覆い被さるようにして倒れる瀬野は腕に怪我を負い、それに気付いた美沙は心配そうに見るものの言葉をかけられずにいた。

「大丈夫か?」

「はい…」

瀬野は自分が立ち上がると、美沙の手を取ってゆっくり立たせた。

「美沙!」

「ルカさん」

「無事か?」

「はい。大丈夫です」

「そうかぁ、良かった」

駆け付けたルカが安堵の表情を浮かべながら美沙を抱き締める。

「まだだ」

天井を見詰める瀬野が呟き、美沙とルカに逃げるよう促す。
片方に傾く矢倉は着実に崩落へと向かっており、不安を掻き立てる嫌な音を立てながら全体が倒れていく。
その様子は、見守る人混みをかき分けやって来たママ達からも、しっかりと見てとれた。

「ママさん!」

「由依ちゃん、無事?」

「うん」

「ママ!」

「美沙ちゃん!」

美沙達が由依と玲美と合流し、急ぎステージから降りた。

「なんで正樹さんが…」

やがてバランスを失った矢倉はゆっくりと倒れ、だが確実に機材を破壊する威力を知らしめ、そのステージは幕を閉じた。

次の日。警察やマスコミで溢れる大学は事態の重さもみて、暫くの間休校する事となった。
立ち入り禁止となったそんな大学の前に、マスコミに紛れるようにして佇む瀬野の姿があった。

「事故? ふざけるな。あれは間違いなく」

「誰かの仕業?」

「君は!」

瀬野の前に現れたのは、ステージ脇で瀬野とやり取りしていたあの女性である。
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