揺れて恋は美しく
明かりが途絶えて陰ばかりの道を行く美沙に、追い討ちをかけるように雨が降り注ぎ、咄嗟に近くのお店に避難する。

「美ーちゃん?」

声を掛けたのはタイちゃんで、そこは色とりどりの花が生きるフラワーショップであった。

「彼は? 一緒じゃないの?」

「うん。まだ、撮影してる…。タイちゃんは? 買い出し?」

「え? そ、そう。ちょっと色が欲しくて」

「ふぅん。大変そうだね?」

「お知り合いですか?」

格好いい店員が話しに割って入り尋ねる。タイちゃんはもじもじしながら、その問に答えた。

「た、ただの友達」

「そうですか?」

「はい…」

何かを悟った美沙は笑みを浮かべて、もじもじするタイちゃんの顔を覗き込む。

「な、何?」

「花が目的じゃないでしょ?」

「ば、馬鹿言わないでよ! なんで僕が彼なんかを?」

「えぇー、彼の事なんて一言も言ってないのにぃ」

「いゃー! わっ、わっ、わっ、黙りなさい!」

「なに一人で盛り上がってんの?」

「あんたねぇ。性格悪くなったんじゃない?」

途端に表情が固まる美沙。

「お二人仲良いんですね?」

「いいえ、全然!」

「そう、ですか?」

「腐れ縁です」

「へぇー。そういえば、お仕事って何されてるんですか?」

「えっ? ど、どうして?」

「いや、良くご利用頂いてるので」

「フラワーアレンジメント」

「ちょっと美沙!」

「あれ? 言っちゃ駄目だったの?」

「だ、駄目じゃないけど…」

「素敵なお仕事ですね」

「えっ、ほんと? 変じゃ、ありませんか? 男がフラワーアレンジメントなんて」

「まさか。僕も花が好きでここに居ますから、寧ろ憧れますよ」

「えっ? え、え、聞いた?」

「…うん。良かったね?」

その後タイちゃんは両手一杯に花を買って、とても楽しそうに笑顔で店を後にした。

「帰るなら送ってくよ」

「仕事は? いいの?」

「ん、うん。もう終わってるから」

「えっ? じゃあ花は?」

「これは、店用に…」

「へぇー。ママ、喜ぶね?」

そして二人は車に乗り込み、赤く遅いスポーツカーが走り出す。
車中でタイちゃんは楽しそうに話をふるが、美沙はどこか冴えない様子で表情が暗かった。

「美ーちゃん?」

「なんか、ごめんね」

「何が?」

「私、ほんと性格悪いかも」

「はぁ、何言ってんの? あんなの本気で言ってないって」

「分かってる…」

車は雨の街を進み、車内にはその雨を踏む音だけが響いていた。
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