極上の他人



輝さんのお店は相変わらず混んでいて、私のために用意されているカウンターの空席は遠目からでも目立っている。

順番を待つたくさんのお客様がお店の外に並んでいるのに、席を用意され優遇されている自分の立場を実感して、申し訳なく感じる。

そんな申し訳なさを抱えながら、輝さんに手を引かれて席に着いた時、カウンターの向こう側にいる千早くんが声をかけてくれた。

「今日も遅かったんだね。女の子をこんなに働かせるなんて、会社って容赦ないね」

「うん……今は忙しいからどうしても遅くなるんだよね。一区切りつけばもう少し早く帰ることもできるんだけど」

「そっか。まあ、遅くて大変だろうけど、ふみちゃん楽しそうだよ。仕事が充実してるって感じだね」

「あ、わかる?知らないことばかりで大変だけど、毎日自分が成長してるって感じるし、今関わっている仕事っていつか形になるものだから、やりがいがあるんだよね」

確かに体は疲れているし、初めて経験する仕事が多い毎日は神経も張りつめて気を休める時間はほとんどないけれど。

今、紙の上だけであーでもないこーでもないと四苦八苦しているものが、いつか展示場に建設されるんだと思うと、それだけで疲れは半減する。



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