極上の他人


けれど、女には困らない生活って、さらりと言ってしまえるなんて、よっぽどもてていたんだろうな。

確かに女性には人気がありそうな見た目だし、亜実さんいわく『コンパにくれば引く手あまた』らしいから納得できるんだけど。

「彼女がいるのなら、コンパなんて行っちゃだめだよ」

ぽつり呟いた私の手元に、千早くんは今日のおすすめだという茶わん蒸しを置いた。

「ああ。もう行くつもりはないから、亜実さんの誘いも断った」

「そうなんだ。うん、そうじゃなきゃね。彼女がいるなら誠実に向き合わなきゃ」

「それをふみちゃんに言われるなんて思わなかったけど?」

「は?」

「だって、ふみちゃんが向き合わなきゃいけない男はあっちで楽しそうに女としゃべってるし。そんな男、ふみちゃんの手に負えるなんて思えないし?」

からかうような千早くんの声に、はっと視線を上げて後ろを見ると、そこには楽しげに女性客と話している輝さんがいた。

私を席に案内してすぐ、お客さんに注文を聞いたり、声を掛けられれば笑顔を向けたり。

私のことは千早くんに任せきりで全く構ってくれない。

店内を軽やかに動いてはその魅力をこれでもか、と振りまいている……ような気がするのは嫉妬からくるものだけど。

それも輝さんの仕事だし、仕方ないとはわかっている。


< 143 / 460 >

この作品をシェア

pagetop