極上の他人


せっかく会えたんだから、少しくらい話す時間が欲しいって思うけれど、毎日私を迎えに来てくれる時間を作ってもらえるだけでも感謝しなくちゃ、と気持ちをごまかした。

本来なら、このお店のことは店員さんたちに任せて、輝さん自身は新しく出店するお店の準備に力を注がなくてはいけないと聞いている。

そんな中、私のために大切な時間を提供してくれるだけでもありがたいと思わなくちゃいけないのに。

わかっているのに。

「人間って……欲深い」

低い声とともに落ちる吐息。

輝さんに大切にしてもらって、そして『守ってやる』なんて甘い言葉を言ってもらえて。

それだけで満足しなくてはいけないのに。

「私って、図々しいね」

もっと私を見て欲しいとか、側にいて欲しいとか願ってしまう自分に気付いて切なくなる。

輝さんが私を大切にしてくれるのはきっと、誠吾兄ちゃんに頼まれたからだろうし、一人暮らしの私を可哀そうだと思う優しさからだろう。

それをわかっていても、女性客に笑顔を振りまきながら、愛想よく店内を動き回る輝さんが遠い存在に思えて寂しくなる。


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