極上の他人



翌朝、宣言通り私をマンションまで迎えにきてくれた輝さんの車で会社まで送ってもらった。

一人で通勤できると何度言っても輝さんは聞き流し、曖昧に笑って「史郁と一緒にいられる時間が増えて嬉しいよ」と流してしまう。


輝さんに対して、諦めに似た気持ちすら生まれる。

輝さんのことを好きだと自覚した私は、輝さんと親密そうにしている女性を見たことがきっかけで輝さんのことを諦めようとした。

けれど、私の気持ちに反して、輝さんはこれまで以上に私のことを気遣い甘い言葉をかけてくれる。

二人で一緒にいても、かみ合わない関係がもどかしい。

輝さんは、一体私をどう思っているんだろう。

お店で輝さんと親しげにしていた女性との関係が気になって仕方がない。

二人でいる様子に気付いた私から彼女を隠すようにお店の外に出て行った後ろ姿を思い出すだけで、切なくなる。

彼女をお店の外に出そうと必死になっていた輝さんの表情が今でも目に浮かぶ。

それほど私に会わせたくなかったのか、そして、私の存在を彼女に知られたくなかったのか。

何度考えても答えは見当たらない。

少なくとも、彼女は単なるお客様ではなくて、輝さんに何らかの影響を与えている人に違いない。

……恋人、と考えるのが正解だろうけれど。

< 189 / 460 >

この作品をシェア

pagetop