極上の他人
「ああ、営業マンにプライベートはないんだ。お客様が一生に一度経験するかしないか、家を建てるってのはそれほどのものだからな。それに寄り添うには相当の覚悟がいる。
君たちが今、突然出張に出ろと言われて戸惑うなんて、甘い甘い。
展示場に行って、家だけではなく営業マンの仕事ぶりを見て勉強してこい」
そう言って、部長は大きく笑った。
「机の上で図面を眺めてるだけじゃ、いい仕事はできないぞ。展示場だけじゃなく、部材を生産している工場にも行ってじっくりとその工程を見て欲しいけど、まあ、それは追々。新入社員研修でおざなりに眺めた程度じゃ自分の仕事に生かすほどのものは得られないからな。まあ、それは仕事だけじゃなく、人生全てそうだけど。何事も、じっくりと見ようとしないと見えないものは多いから、今日は一日展示場の手伝いに行ってこい」
とっとと行って来い、という軽やかな声とともに会議室を出された私たちは、一旦部署に戻って準備をしたあと、展示場へと向かった。