極上の他人


「交換はしてないけど、連絡して欲しいってお名刺をいただいたんだよね。そう、それだけだよねー」

「そうです。無理矢理名刺を渡されただけで、私の連絡先は教えてません」

「そうそう。何度もふみちゃんの連絡先を教えてくれって食い下がられたけど、意外にふみちゃんは逃げ上手なんだよね。困りますって何回言ったかなあ。とにかく断固拒否って感じで乗り切ったね」

「だって、誰だかわかんない人に連絡先なんて教えられないし……」

「まあね。見た感じは悪い人たちではなかったけど。とにかく無理矢理名刺を押し付けられただけ」

多分、この辺りにの会社に勤務している会社員の男性だ。

きっちりと着こなしていたスーツを見れば、そんなに悪い人ではないと思ったけれど、やっぱりついていく気にはなれない。

「ナンパでの出会いだって、それが続けば運命なんだけどねー」

ビールを飲みながら、ふと呟いた艶ちゃん。

手元に置かれたお皿には、野菜の煮物と鳥の空揚げがおいしそうにのっている。

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