極上の他人


ということは、輝さんが真奈香ちゃんのことを知っているということだ。

けれど、真奈香ちゃんから渡されたメモ用紙をそっとポケットにしまいこんだ輝さんを見て、それを知られたくはないんだと感じた。

その瞬間、私に愛情めいたものを向けてくれる輝さんを、何故か遠くに感じて、そして、カウンターの向こう側からかけられる言葉が曖昧に思えて、悲しかった。

その日以来、そのことを聞くこともできず、忘れるように仕事に励み、輝さんが用意してくれる夕食を楽しむことだけに意識を向けていたけれど、こうして二人が一緒にいる様子を目の当たりにして、抱えていた不安が現実になったんだと気づいた。

「なんだ……私、泣いてない」

既に消えた輝さんの車を追うように立ち尽くしていたけれど、心は空っぽで、涙さえ浮かんでこない。

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