極上の他人



その後、私のカバンを持って追いかけてきた亜実さんの心配そうな姿を残し、輝さんは無言で車を出した。

「あ、あの、輝さん……?お店に行くのなら、方向が違うんですけど」

大通りを走る輝さんの車は、『マカロン』とは反対の方向に向かっている。

『マカロン』があるオフィス街からどんどん遠ざかり、商店街の脇を抜け、しばらくすると住宅街を走っていた。

スーパーや郵便局、そして学校や銀行などが次々と車窓の向こうを流れていき、車が走るには十分だとはいえない狭い道に入っていく。

無言のままハンドルを握っている輝さんは、どこに向かっているのかも何も教えてくれない。

いつもそうだけど、今日は特に強引だ。

私は輝さんが口を開いてくれることを諦め、助手席に体を埋めた。

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