極上の他人


・・・・・・それにしても、亜実さんはこんな短期間によくも次々とお見合いの話を用意できるな、と感心していると。

「輝くんね、バーの店長さんだから夜のお仕事だし、それに客商売だから先行き不安定でしょ。
私の友達である彼のお姉さんは、彼のことをかなり心配してるんだけど、彼女もこの間結婚してなかなか輝くんに気が回らなくなったのよね。
だから、輝くんを大切にしてくれる人はいないかなって相談されて」

亜実さんは何も問題はないように、うふふと笑いながら呟いているけれど、私は亜実さんの言葉に首をかしげてしまう。

「夜のお仕事だったら、会社員の私とは生活リズムが全く違うじゃないですか。それに不安定な職業なのに、どうしてそんな人を私に勧めるんですか」

未来に結婚を見据えるお見合い相手としては全く適していない男性だと思うのは、当然だと思う。

やっぱり安定した職業に就いている人で、自分とは同じ生活リズムの人がいい。

長い人生を共にするのなら、それは外せない条件だと思う。

「亜実さん、私はまだ入社したてのひよっこです。これから設計の事やら社会の事やら、いっぱい勉強していかなくちゃいけないんですよ。
結婚なんて考えられません。このお見合いは、他の女性に回してください」

課長である彼女を亜実さんと呼ぶ事に、配属されてすぐの頃は抵抗があったけれど、周囲の人たちは当然のように、ましてや時折設計部に顔を出す社長までもがそう呼ぶ雰囲気に流されて、いつの間にか私もそう呼ぶようになった。

『亜実さん』と呼ばれるにふさわしい優しい雰囲気に満ちた課長だから、すぐに馴染んだけれど。


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