極上の他人


それに甘えて、私は新入社員の分際で、生意気な言葉を口にしたりもする。

「もしも私が亜実さんの娘なら、このお見合い、勧めますか?」

「え?ふみちゃんが私の娘?もしそうだったら大急ぎで二人が結婚できるように話を進めるわよ。だってこの写真見てよ。輝くんってかなりの男前でしょ?
輝くん目当ての女の子が引きも切らずにお店に来たり、雑誌の取材という名目で、女性記者もよく来るみたい。そんな人気のある男性の奥さんなんて、楽しそうでしょ?」

「はあ?あの、そんな女癖の悪そうな人と、お見合いなんて……」

「あら、女癖が悪いのと、女性に人気があるのとは、全く違うわよ。
女性からの人気が高い男性が自分ひとりだけのものになって、自分ひとりが愛されるなんて、女冥利に尽きるでしょ」

「亜実さん……」

なんだか気が抜けてしまう。

偏見かもしれないけれど、女性に人気のあるかなりの男前で、それもバーの店長なんて。

女性の影が絶えなさそうだ。

そんな人と付き合いだしたらきっと、私は四六時中恋人の浮気を気にして悩んで落ち込んで、何も手につかなくなるに違いない。

恋愛経験値が低すぎる私は男性との駆け引きなんてできないし、他の女性からの誘惑が多い男性と付き合うなんて、精神的につらいだろうし。

一途に私だけを愛してくれる人じゃないと、付き合うことも結婚することもできない。

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