極上の他人


夢か現か曖昧だけれど、私はそれを待っていたんだと実感するには十分なものだった。

輝さんにキスをされて、驚く気持ち以上に嬉しさが胸にあふれてくる。

「好きだ。もう、見守るだけでいいなんて格好つけるのはやめる。史郁を誰にも渡さないし誰からも傷つけられないように側にいる」

「あ、あの……わ、私も、輝さんのこと、す、好きで……あの」

「ああ。わかってる。史郁の気持ちは顔に出ていたから、そうだとは思ってたけど。
ちゃんと言葉にされるって、嬉しいもんだな。これから何度でも言っていいぞ?」

ん?

とからかうように私の顔を覗き込むと、輝さんは大きく息を吐いた。

相変わらず背中から私を抱きしめ、逃がさないとでもいうように力が込められている。

私もほっと息を吐いた。

好きな人から『好き』と言ってもらえることは、これほど幸せなことなんだと実感して体中が熱くなる。

両親からでさえ、『好き』と言ってもらったことも愛情を向けられたこともない私には、欲しくて欲しくてたまらなかった言葉だ。

じいちゃんとばあちゃん、誠吾兄ちゃんからたくさんの愛情を注がれたとはいっても、両親に捨てられた子供が受けた傷は生涯癒えることはない。


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