極上の他人
「ごめんな、突然のことで驚いたよな。俺だって、史郁が驚くのは覚悟していたんだ」
輝さんは、ぽんぽん、と私の気持ちを軽くするように背中を叩いてくれる。
テンポよく続くその仕草に気持ちを集中させて、私は呼吸と感情を整えるように何度か大きく息を吐いた。
「展示場の近くで、真奈香ちゃんが偶然史郁を見かけて、連絡先まで押し付けた日があっただろ?
あの日の晩俺から連絡をとって、史郁に近づくなって言ったんだけどな。
結局一度だけ会わせる約束をさせられて……。
史郁にとって最善のことなのか、今でも悩んでるけど、俺もいるから。
……突然で、悪い」
私を気遣いながらそうつぶやき、輝さんは何度も私の背中を撫でてくれる。
真奈香ちゃんと会った日、そうか、あの日、輝さんは真奈香ちゃんに連絡したんだ。
「輝さん……私……」
どう答えていいかわからないまま、そっと視線を上げ、背後にいる真奈香ちゃんを振り返る。
すると、真奈香ちゃんは苦しそうな声でつぶやいた。
「以前……お母さんの弟だという……誠吾さんが、遺産のことで来られて。その時に史郁さんの写真を見せてもらったんです。お母さんにそっくりで、びっくりして……そして、私が史郁さんからお母さんを奪ったことにも気づいて」
真奈香ちゃんの言葉が私を傷つける。
お母さんを奪ったって、はっきりと言われて、実の娘の私はどう答えればいいんだろうか。
愛された記憶もない、見捨てられた娘なのに。
真奈香ちゃんの後ろに立つお母さんをそっと見ると、そこにあるのは。
私の耳に傷跡だけを残して立ち去った、お母さんの冷たい横顔だった。
その人が、私ではない女の子の傍らで、私を敵とみなすように立っている。
「もう……いや……」
お母さんに会いたくなかったと言えば嘘になるけれど、まさかこんな形で再会するとは思っていなかった。