思春期の正しい壁ドン
「途中までは、よかったんだけどねー……」

 バスケ部のやつらにアドバイスされた結果だと、事の次第を説明した。
 いくら弁解しても醜態をさらした俺は、壁際で小さくなっていることしか出来ない。
 途中まではよかったというフォローが、より俺をいたたまれなくする。
 冷静に考えれば分かることだった。
 なんか変だとは思ってたんだ。
 両手をつくまではまだなんかわかったけど、両足はないだろうって思っていたんだ。
 妙に疲れるし、なんのトレーニングだよ。

 言われてみればあのポーズ、木にしがみつく蝉みたいだ。
 蝉に胸キュンする女子なんて、よっぽどの昆虫好きじゃないといない。
 大半の女子は、虫嫌いだっていうのに。

 でも、最近の女子はこれっくらいのインパクトがないとダメなんだとか、たくましいところを見せるのがいいんだとか、メンバーみんなに言われるとそういうもんなのかって思っちゃうんだ!
 ああも自信満々に言われると、変だと思う自分の方がおかしいんじゃないかって、自信がなくなってしまった。
 俺はもっと自分に自信を持つべきだった。

「まあ、コータくんのそういう所……私は……だけど」
「えっ……?」

 上手く聞き取れなくて顔を上げると、千紗ちゃんが頬を少し染めていた。

「コータくんは、真剣だったんだよね?」
「もっ、もちろん!」

 俺は姿勢を正し、彼女を真っ直ぐに見詰める。

 おふざけみたいな結果になってしまったけど、俺はいたって真剣だった。
 真剣に、千紗ちゃんに気に入られたいと思っていた。
 好きになってもらたいという気持ちも、好きだっていう気持ちも、空回ってしまったけど……

「俺、本当に千紗ちゃんが――」
「だめ」

 彼女の指がのびてきて、そっと俺の唇にふれた。
 唇にふれた彼女の指は、俺が初めてふれた彼女の体だった。
 指先なのにふっくらとしていて、女の子ってこんなとこまでやわらかいんだ。

「私に言わせて」

 トンっと音がして、俺の告白を遮った彼女の両手が壁に置かれる。
 少し腰を上げたことで、スカートがめくれあがって白い足が視界に入った。
 白いソックスでさえ、彼女がはいていると俺をドキドキさせる。
 目の前に彼女の淡い唇が迫って、少し照れくさそうに微笑んだ。
 それから――……

 耳元でささやく声も吐息も内容も、俺を茹で上げるには十分すぎるものだった。
 俺は壁ドンの威力を知り、人生初の彼女を手に入れた。
 蝉ドンも結果オーライだ。
 でも、明日あいつらをしばくのは絶対に忘れない。
 そして、思いっきりのろけてあいつらを悔しがらせてやる。


「私も、コータくんが大好きです」
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