幸せになるために
振り向くと、どうやら彼は寝返りを打ったらしく、今度は仰向けの姿勢になっている。

安眠を示す、穏やかに上下する胸の動きが確認できて、ホッと息を吐きながら、ゆっくりと顔を前に戻した。

しかし一度はね上がった鼓動はすぐには治まらず、ドキンドキンと大きく波打ち、額にはじんわりと汗が滲んで来る。

もう一度、ネットに繋ぐべく、ケータイに指を近付けてみたけれど……。


………ダメだ。

もうこれ以上、読み進む勇気は出ない。

今なら吾妻さんの言いたかった事が手に取るように分かる。

情報の取捨選択も裏付けも必要ない。

すでに最初から、答えは出ていたんだから。

オレはケータイをテーブル上に置くと、両手で顔を覆い、そのまま前屈みになって自分の膝に肘を着けた。

どれくらいの時間、そうしていただろうか。

とりあえず身体的には落ち着いたようなので、ノロノロと顔を上げ、そのまま上体を捻って再び聖くんに視線を向ける。

途端に、先ほど目にした記事の内容がフラッシュバックして、思わず瞼を閉じた。

酷すぎる……。

こんなに小さくてか弱くて、まだまだ庇護が必要な子に対して、どうしてあんな事を…。

ほどなくして、目の奥から鼻腔にかけてじーんと痺れ、熱い液体が徐々に溢れて来るのが分かった。

一度こうなってしまったらもう、止めるのは容易じゃない。

オレは慌てて立ち上がり、ストーブの電源をオフにして、明かりを消すと、寝室へと駆け込んだ。

布団に体を滑り込ませて掛け布団を頭の上まで引き上げる。

そして両手で口を覆った所で、オレはようやく嗚咽を洩らした。

なるべく聖くんには聞こえないように。

だけどそうせずにはいられない自分自身も尊重しつつ、オレは布団の中で小さく縮こまり、長い時間、泣き続けたのだった。
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