おはなのようせい【短編】

この出会いは必要だった。神様のイタズラでもなんでも、なくてはいけないものだった。

じゃないと、綿毛は透明のままだった。むしろ花のままだったのかもしれない。

それはとても恐ろしいことだと思った。

彼が幸せでよかった。心から、本当に。







清々しい気持ちだった。足枷が外れたような自由で、それでいて焦燥感。




_________会いたい、あの人に。


本能から。




「私、帰るわ」

「短いな。俺らがいるから?」

彼は無意識下できっとわかっているのだろう。でも、わからないふりをする。

「違うよ。突然に会いたくなっちゃった人がいるの」


どうしても。どうしても。
こんな焦がすような想いは新鮮だ。


「それは、会いに行かなくちゃなぁ」

俺も嫁が拗ねるし、と笑った。

私も笑った。



私はお互いにさよならをした時、「今さらだけれど結婚おめでとう」と祈るように祝福した。彼は私が好きだった笑顔で「ありがとう」というと息子と反対道へ帰っていった。



私は帰らなかった。


私はあの人に会いに行く。




****


扉を開けるとお馴染みの小さなベルが二度ほど鳴った。あの人がいた。恋い焦がれるほどの、あの人が。

「今年はどんな花にしますか?」

ガラスケースを開けて彼は物色しだした。
満さんは私がおはなのようせいだということをしっていた。
毎年、私は訪れた。

私はかぶりを振って答えた。

「今年でもう、花蒔きは終了です。だから、このタンポポに合うブーケを一ついただけますか?」

「というと?」

「食卓に飾りたいのです」

そういうと満さんはなるほど、といって柔らかく笑ってブーケ製作に取りかかった。
その表情はどこか嬉しそうだった。

私はそんな顔を見てしまって思わず口が滑ってしまった。



「会いたかった、です」

剪定していた手が止まった。
そして、かれは顔を真っ赤にしてリンゴになった。

「また会いに来てもいいですか?」

ロボットのようにぎくしゃくと、頷く彼に私は満足げに笑って、ブーケをずっと眺めた。



End




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