金色・銀色王子さま
カが低い声でぽつり。
冷えて、血色悪くなってきたその唇でそう呟いた。

莉奈と呼ばれたその女性は、麻衣より少し上くらいの綺麗な女性だった。
スーツを着ていて、きっちりお化粧。
肩くらいまである黒髪。耳にかけるとサラサラと零れていった。
麻衣と目が合うと、少しだけ微笑んで会釈する。
それだけなのに、とても良い人そうだと思った。



「…なんでいるの?」
カイトはなおも低く言い放つ。


「出張で東京に来たの。家にいるかなと思って…電話するより直接来ちゃった。…お邪魔だった?」

莉奈は二人の顔を交互に見た。


「だ、大丈夫です!私、帰るとこだったので」

大げさに顔の前で手を振って、カイトから距離を取る。まるで道を譲るみたいに壁に背中を押しつけて。


「ごめんなさい、お邪魔して…」
莉奈は申し訳なさそうに、だけどしっかりカイトの前まで来た。
カイトは視線を合わさない。あからさまに外の雨を見ている。



「お話しよう、カイト。ちゃんと…二人で」


「………」




冷たく言い放ったり、視線を合わせなかったり。
そんなことは、嫌いな人にだけするものだと思っていた。
だからきっと莉奈さんのことは嫌いで、はっきりと拒否して、突き放すものだと思い込んでた。
でもそう思ってたのは自分だけで…








「ごめんね、麻衣ちゃん」



気の使った笑顔を向けて、そっとドアを閉めた。




聞こえるのは雨の音だけ。
残された麻衣には、傘立てに掛けられた真っ赤な傘が目に焼き付いた。


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