ラッキーセブン部
第十二話 文化祭前日のハプニング
文化祭前日…
まさか…こんなに時間がかかるとは思ってなかった。マジックってのは…難しくて俺の相に合わないということがよく分かった。というか…何で俺がこんな事をやらないといけないんだ!笹井先輩が頑張っているから俺もやってるが…。

「私、買い出しに行ってくるね」
「あ、俺も行く」
「近藤はマジックの練習が優先でしょ」

この空間から出れると思えたのにな。でも、笹井先輩がここからいなくなったら俺がここにいる意味はない。どう逃げるかだけ考えよう…。

「じゃあ、いってきます」
「笹井先輩。どこに買い出しに行くんだ?」
「すぐそこの雑貨屋さんだけど?」
「そうか。気をつけて…」
「…意味分からない」

笹井先輩はそう言ってから、出掛けていった。さてと…近くの雑貨屋か…。ここから、普通に外に逃げると校門あたりはこの窓から見えるから裏門から出るしかないかな。あそこなら、雑貨屋からも近いし…。さて、次は出る瞬間だけど…。

「俺、トイレ行ってきます」
「俺も!」
「…男同士で連れ便か…」
「いってらっしゃーい」

倉石と一緒にトイレに行くしかないよな。倉石には口止めをしておかないと…。

「まさか…近藤君、逃げるんじゃないよね?」

部室を出ると俺の心を読んでいるかのように倉石が疑いの眼差しでそう聞いてきた。でも、俺は堂々と言ってやった。

「そのまさかだよ。俺は逃げる。先輩達には何も言うなよ」
「言うもなにも…すぐにバレると思うけど…」

俺は念を込めるように倉石の肩を小突いて廊下の窓から外に出た。ここは一階だから窓から出ても支障はない。俺は裏庭を越えていき裏門を飛び越え学校から抜け出した。ここから雑貨屋はそう遠くはないが、あまり学校の近くで笹井先輩に会っても戻るように言われてしまうから少しだけ雑貨屋の遠くから笹井先輩の事を見守る事にした。
俺が雑貨屋の近くに着いた数分後に笹井先輩は雑貨屋に来た。
よし、ここからが問題だな。今、行った方が良いな…。
しかし、一歩踏み出そうとした時に後ろから誰かに肩を叩かれた。もしかして、先輩達にバレたのかと思い、俺は恐る恐る後ろを振り返った。

「よぉ〜久しぶり。隼一、まさかこんな所で会うとはな…」

しかし、後ろにいたのは先輩ではなく、ましてや倉石でもなかった。

「半年ぶりだな。戸田…那央」

戸田那央。
中学時代、俺の事を敵視していた不良グループの長だ。何度か決闘みたいな事をしたことがあるが、決着がつく前に警察が邪魔しに来て俺とこいつの闘いは勝敗が決まっていなかった。今更、俺はこいつらと闘おうとは思わないが那央は目の奥に闘志を燃やしているようだった。
面倒臭い事になりそうだ。俺はまた、逃げるという手段を考えなければいけなくなった。ここから、逃げるとすると学校だが…戻りたくないな…。
俺が逃げる事を思案していると、那央は雑貨屋を眺めていた。

「お前…ストーカーでもしてたのか?」
「なっ…!」

そして、俺にそんな事を言った。

「まぁ、俺もある人物をストーカーしてるけどな」
「お、俺か?」
「何でお前みたいなむさい男をストークしないといけないんだよ…。俺は…あ、あの人だ」

那央はそういうと店から出てきた笹井先輩を指差した。
嫌な予感がする…。というか嫌な予感しかしない。よくある恐い男に女が絡まれるパターンだ。

「じゃあ、俺はあいつをナンパしてくるから…」
「待て。俺もナンパする」
「ふーん…。じゃあ、どっちに来るか競争するか」

知り合いだという事はこいつにはバレないようにしないとな…。
俺達は笹井先輩の前に立ちはだかった。案の定、笹井先輩は目を丸くして俺達を見た。

「やぁ。お姉さん。俺らと遊ばない?」
「ちょっ、ちょっとぐらい良いだろ?」
「…」

笹井先輩は俺を怪訝そうに見ると無言で横を通って行こうとした。しかし、那央は諦める事を知らないのか笹井先輩の腕を掴んだ。

「…離してください」
「少しで良いからさ〜」
「…」
「隼一も前みたいになんか言えよ」
「そんなに手間を取らせないから…」

笹井先輩はさらに俺を睨みつけた。あとで殺されそうだ。最悪だ。

「そうだ。キスしろよ。そしたら、気が変わるかもしれないだろ?」

こいつは何を言い出すんだ!ここでこいつをノックアウトした方がいいだろうか…。いや…しなければダメだよな。
俺は拳に力を込めて今にも笹井先輩を襲いそうな那央の横っ腹を殴った。

「な…」

うまく命中したのか、そのまま地面に手をついた。
今の俺、正義の味方みたいだ。

「あんた…何してんのよ…こんな所で…」
「あ、いや…。少し散歩を…」
「何で不良みたいなことをしてるのよ!」
「いや…別にしたいわけじゃないし…」
「学校…抜け出したの?」
「えっと…」
「…やっぱり…お前ら、知り合いだったのか…!」

俺達のやり取りを見ていた那央はそう言って手を挙げた。すると、那央の仲間と思われる人がいっぱい出てきて俺達の周りを囲んだ。また、逃げる事は不可能か…。ここで闘うしかなさそうだ。

「闘うのはここじゃない…もっと人気のない場所だ」

那央はそう言いながら、フラフラと立ち上がり俺達を小さい公園に連れて行った。

「…ねぇ…どうして、こんな事になったと思う?」
「…分からない…」
「おい。その女はこっちにやっとけ。怪我でもされたら困る」

笹井先輩は那央と一緒にシーソーの所に避難した。確かにその方が闘いやすいが人質に取られているみたいで、気持ちの良いものではないな。
俺はフッと息を吐くと現状把握をするため、周りを見回した。
1,2,3…ザッと20人くらいか…。どうせ、皆、雑魚だろうから一発で肩をつけてやろう。

「かかれ!」
「「おう!」」

那央の合図と共に、雑魚達が一斉に俺に飛びかかってきた。俺は一回それを飛びのいて回避してから確実に一人一人の腹や顔を殴った。
…やはり、雑魚か…。俺は最後の一人をノックアウトすると大きく息を吐きながら、シーソーにいる那央を見た。

「さすが、隼一。こいつらを全員殴るなんてな」
「…序の口…。さぁ、早く笹井先輩を返せ」
「でもな。殴っただけじゃ意味はないよ」

那央がニヤッと笑うと俺は背中に大きな衝撃を受けた。気付くと後ろにはフラフラと立ち上がる雑魚共がいた。
ゾンビか、こいつら…。
俺は背中の痛みを堪えながらもう一度そいつらと向き合った。

「ニャンと鳴いてワンと鳴くものな〜んだ」

俺が攻撃をしようとした時、そんな間抜け声が木の上から聞こえてきた。

「人間様だ!」

その瞬間、黒い影が俺の前に落ちてきた。
なんとなく、見当はついていたが、やはり栄先輩だった。

「オウムでも良いんじゃないか?」
「うぁっ!」

すると、シーソーの影から出てきて那央を誰かが背負い投げした。誰かって…正弥先輩しかいないけど…。

「何でここに…」
「帰りが2人とも遅いから正弥が心配して雑貨屋に行ったら、変な集団が人気のない場所に連れて行ったっていうからここまで来たんだよ」
「俺は心配なんてしてない。明日の文化祭のサボりをしてるやつを罰しに来ただけ…というか、こいつらは何?不良?」

見たとおりだと思うけど…。

「こいつらを倒せば良いんだね?ってあれ?皆、何で退却しようとしてるの?」
「俺が背負い投げしたやつがボスだったんじゃないか」
「えー…そっか。じゃあ、戻ろう」

2人は何事もなかったように笹井先輩を連れて公園から出て行った。

「お、置いてくなよ!」

俺も続いて公園を出たが、その時、那央が何かを行っていたような気がする…。

ー学校ー

「ただいま。こうすけ」
「わざとですよね?それ…」
「一人だけ来なかったからだろ?」
「吉田先生に身代わりとして置いたのはどこの誰ですか!」
「そうだ。倉石が可哀想だろ?いくら、一番影が薄いからって…」
「近藤君まで!」

倉石は耳まで真っ赤にして俺達を睨みつけた。一人足りないと思ったら、倉石だったのか。
…倉石が来た所で不良と闘えるかっていうとそうでもないから、ある意味良かったんじゃないかな。もしかして、先輩達はそれを分かってたんじゃ…。

「さてと…お前ら、仲良く帰ってきたのは良いが明日の準備は出来てるのか?」
「一応は出来てますよ。余興は何事も起こらなければ正味30分くらいで終わります」

先公は含み笑いを浮かべながら質問をしているが正弥先輩は動じることなく真面目にそう応えた。
この2人は絶対に相性悪いだろうな。

「そうか。じゃあ、俺は楽しみにしてるよ。その調子で頑張ってくれ。あとで、お礼をするから」
「…ありがとうございます」

先公はそう言うと、部室を退室していった。
それにしても…本当に俺もこの文化祭の余興に参加しないといけないのだろうか…。俺はそんな事をしたくないんだが…。もしも、今の状況を昔の奴等が見たらバカにされるに違いない。こんな私立高校にわざわざ来ないとは思うけど。

「どうしたの?近藤、顔が暗いよ?」

そんな考え事をしていると笹井先輩が俺の顔の前で手をパタパタとした。

「…俺のやる気が出るような条件があれば、この文化祭の余興をやっても良いなと思って…」
「そんな物あるわけ…」
「良いね!確かに条件があると、やる気も違うよね。隼一はどんな条件が良いの?」

俺の言葉に正弥先輩は呆れ顔で何かを言おうとしていたが、それを遮って栄先輩が質問を俺に投げかけた。

「…笹井先輩と一緒に出掛ける」
「「?!」」
「そっか〜。笹井先輩はどう?隼一と2人きりで出掛けるの…」

栄先輩以外は皆、目を丸くしていた。もしかして、栄先輩は俺の味方になってくれるのか?それは、心強い。正弥先輩を何とか丸め込んでくれれば俺は有利になる。

「私は…勉強に差し支えない程度なら時間は取れるけど…ほんの数時間くらいだよ?それでも良いの?」
「良いですよ。じゃあ、文化祭終わったら俺と出掛けるという条件で余興やります」
「お、おい。勝手に決めるな!」
「正弥〜人員は多い方が良いでしょ?」

栄先輩、その調子だ。それにしても、倉石はどうして何も言わないんだろう。こいつだって、笹井先輩の事…。

「…分かった。おい、隼一。余興でへまをしたら、その約束は無しだからな」
「りょーかいです」
「おーい、倉石君もどうしたの?固まって…」
「あ、俺の事は気にしないでください。明日の事を考えているだけですから…」
「そう…」

倉石はそう言って、マジックの練習をし始めた。笹井先輩は仕方なくそれ以上、詮索をするのはやめていた。
…倉石、本当にどうしたのだろうか。
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