ラッキーセブン部
第十五話 俺の気持ち
文化祭始まる直前、つまり、余興をやる一時間前の話。

「文化祭の準備の手伝い、全くしてないよね。俺ら」
「仕方ない。俺達の仕事は宣伝紙を貼るだけだからな。昨日のうちに済ませられる」

そういうわけで、仕事がない俺達は体育館の演説台の上でポーカーをしていた。放送委員の人や大道具の人は色々と舞台準備をしているが、俺達はなぜかその人達に注意を受ける事はなかった。

「正弥。ボーとしてると負けちゃうよ?」
「ボーとしてなくても栄に負けるのはどうすればいい…」
「へへっ。ロイヤルストレートフラッシュ!」
「は?お前。それは無しだろ!」

何で栄にはいつも勝てないんだろうか。運が悪いのか?俺は…。栄はきっとラスベガスに行ったら大金持ちになるだろうな。
不意に栄は顔をあげて俺の目を見た。

「あ、そういえば、今日の余興が成功したら笹井先輩と隼一が散歩に行くんだよね?」
「それがどうした」
「何で正弥はあの時、反対したの?」
「そ、それは…」
「それは?」

何でって言われてもな…。俺自身もよく分かってないのに答えられるわけない。
俺は笹井先輩の事をどう思ってるんだろうか…。
ただの先輩…。違う。部活が同じ先輩…。違う。

「正弥。笹井先輩のこと…好きなの?」
「ば、ばか。なわけないだろ」
「ふーん…じゃあ、正弥は、隼一と笹井先輩が付き合っても良いんだね」
「な…。部内は恋愛禁止だ」
「面白い事言うね、正弥にしては。だけど、俺はそれを認めたくないな」
「何でだ」
「だって、この部活は元々、『7』を持っている人の中であの妹のお姉さんの好きな人を見つける…が目的だろ?それって、恋愛じゃん」
「…そうだな」

本当はそんな話どうでも良かったし、この部の目的だってちゃんと分かっていた。だけど、隼一と笹井先輩が付き合ってほしくない。なぜ、俺はそんな事を思っているんだろうか。そんなことは笹井先輩が決めるはずなのに…。隼一…。

「…ちょっと待て!それって、隼一が笹井先輩のことを好きだってことか?」

俺が栄にそう問うと栄は少し間を開けてから苦笑いしながら俺を見た。

「気付いてると思ったんだけど…。多分、笹井先輩以外は知ってると…」
「え…」

全く気づかなかった…。だから、隼一は笹井先輩と文化祭を周りたいと言ったのか…。

「ま、正弥には関係ないと思うんだけどね…」

栄は少し微笑みながら俺にそう言った。
俺には関係ないか…。栄の言葉を聞いて本当にそうなのだろうかと思う自分がいた。

ー文化祭2日目ー

「じゃあ、お店の方はよろしくね。お昼には帰ってくるから」
「はい!先輩。楽しんできてくださいね」
「…」

隼一と笹井先輩は文化祭を周りに行った。
また、今日一日中マジックをやらないといけないと思うとため息が洩れる。出来れば、ドチャーさんに手伝ってもらいたい気分だ。

「あ、正弥。はさみ持ってる?」
「持ってないな…。工作部に取りにいこうか?」
「うん。ついでにのりもよろしくお願いします。正弥が取りにいってる間にお客さん来たら対応しとくから」
「オッケー…」

俺はそう栄に言って部室から出た。
…他の所がどんなのをやってるのか気になるし、ちょっと寄り道しながら行くか。佳介のクラスは、縁日だよな。たしか、佳介の係は食品販売だったはず…。
俺は最上階の一年クラスに行き、佳介のクラスに入った。

「いらっしゃいませ。あ、正弥先輩。一人ですか?」
「ちょっとな。様子を見に来てみた。あ、そこにあるクッキーとマドレーヌ買うよ」
「先輩。甘いのダメなんじゃ…」
「栄のお土産」
「あ…じゃあ、マドレーヌ一個追加しときますね」
「さんきゅ。一番端の教室って隼一のクラスだよな?」
「はい。でも、今は誰もいないでしょうね」
「会議室でお化け屋敷だもんな」
「えぇ。羨ましいです。たしか…あの教室では外のクイズ大会の音がよく聞こえてしまうので会議室になったそうなんですけど…」
「そうか…。なら、俺がクイズ大会をそこの教室で見ても問題ないよな?」
「多分…」

隼一の教室は俺が一年の時に使ってた教室だ。何故か、あそこの教室が一番古くて隣の音や外の音が丸聞こえだった。ある意味、お化け屋敷にピッタリなんだがな…。

「じゃあ、俺はもう行くな。頑張れ」
「あ、はい」

俺は隣の教室でクイズ大会の様子を見るため佳介の教室をあとにした。

「…じゃあ、先輩に言う事を言ってから行くよ」

しかし、誰もいないはずの隣の教室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は咄嗟に中に入るのをやめ、ドアの影に隠れた。
今の声って…隼一か?

「俺は…笹井先輩が好きだ。俺と付き合ってくれ」

こ、これは告白…!あいつが笹井先輩に告白したのか!うそだろ!

「先輩?どうしたんですか?教室入らないんですか?」

俺が隼一の告白に驚いていると、教室から出てきた佳介が不思議な目で俺を見ながらそう尋ねた。

「あ、いや。用事があったのを忘れてた。はさみと、のりを貸してくれないか?」
「はさみと、のりですか。ちょっと、待っててくださいね」

佳介はそういうと、教室の中へ入っていった。俺もその後に続いてまた、佳介の教室に入った。
何とか冷静を装って場を忍んだが…俺の心はいてもたってもいられなかった。
栄が言ってた事は本当だったのか…。隼一が笹井先輩に告白をした。それに笹井先輩は何と答えたのだろうか。笹井先輩は隼一と付き合うのか?何で、俺がそんな事で頭を悩ましてるんだ!

「せ、先輩?あの…はさみと、のりです」
「あ、ありがとう。あ…佳介はいつ部室来れるんだ?」
「俺はそろそろ交代ですから、すぐに行きますよ」
「そうか。あ…えっと…」
「どうしたんですか?正弥先輩?」
「い、いや…」

ここで佳介と話をしていれば気が紛れるかと思ったが全くそんな事はないな…。逆にあの2人の事が気になってくる。
そんな事を考えていると隼一のクラスから隼一が走って出てきた。

「あ!隼一!どうしたの?」
「ちょっとな…。俺のクラスの手伝いをしに行くんだ」
「…」
「…正弥先輩。eavesdropping」
「ん?隼一。英語出来るの?」
「笹井先輩に教えてもらった単語は覚えられる」
「へ〜…。で、それ、どういう意味?」
「正弥先輩に聞けば、すぐ分かるさ。俺は意味は忘れたからな」

隼一はそう言ってニヤリと笑うと、走り去っていった。
隼一は意味は知らないと言ったが、あれは絶対に嘘だ。なぜなら、あの英語の意味は…盗み聞きという意味だからだ。隼一は俺が話を盗み聞きしていたのを気付いていたんだ…。だからといって…それに対して俺は驚いたり怯えたりはしないが。

「先輩…。そろそろ、戻らないと栄先輩が大変だと思います」
「あぁ」

俺は教室にまだ1人で残っている笹井先輩が気掛かりだったが、その場をあとにする事にした。

「おかえり〜。あれ、どうしたの?正弥?顔がその…怖いよ」

部室に戻ると、栄が間抜け顏で出迎えた。客は何人か来ていたのか机の上にお菓子が綺麗に並んでいた。

「…ん。そうか…?あ、ほら、お土産だ」
「クッキーとマドレーヌ!!ありがとう!正弥」

栄に土産を渡すと予想以上に喜んでくれた。その証拠に渡した瞬間に中身を取り出し、マドレーヌに食いついていた。猛獣か…。俺は心の中でそう呟いてため息をついた。

「あ、そういえば、さっき桜宮先輩と吉田先生が来たよ」
「桜宮先輩って…あ、生徒会役員の人か」

たしか、笹井先輩と仲が良いんだよな。俺達の事を笹井先輩から聞いているみたいだったし。…桜宮先輩か…。もしかしたら、笹井先輩が俺達の事をどう思ってるのかを聞けるかもしれないな…。

「桜宮先輩って今、どこにいるんだ?」
「茶道部にいると思うよ。さっき誘われたし」
「先輩。今、戻りました」
「あ、佳介」
「佳介。店の事を頼まれてくれないか?」
「え…店ですか?良いですけど、どこに行くんですか?」
「茶道部だ」
「正弥が仕事を放り出すなんて…もう、昼休み始まるから別に良いけど」

栄の一言に俺はハッと気付いた。昼休みが始まったら、先輩に会う口実がなくなる早く行かないと…。

「じゃあ、頼んだ。おい、栄。行くぞ」
「…はーい。佳介、笹井先輩が来たら、お茶を飲みに行ったって言っといてね」
「はい」

俺は栄を連れ出して部室から出た。栄がいれば、言い訳にはなる。ただ、こいつには色々感づかれてしまうかもしれないが。

「正弥。あそこをお茶の袋を持って歩いてるのって、桜宮先輩じゃない?」
「本当だ…。桜宮先輩!!」

桜宮先輩は俺の声にすぐ気がつき、こっちに早足で歩いてきた。

「笠森と荻野ね。どうしたの?」
「あの…えっと…」

俺は何かを聞こうとしようとするが言葉がなかなか出て来なかった。笹井先輩が隼一の事をどう思ってるのか聞いてどうすればいい…?

「先輩。笹井先輩って俺達の事をどう聞いてますか?」

すると、栄は何かを悟ったのか一歩前に歩んで桜宮先輩にそう質問をした。

「あはは。さっきもその質問聞かれた所なんだけど。君達はあれかな?七恵が好きなのかな?私的には全員個性があって面白いけど」

さっきも同じ質問が…。隼一か佳介が聞いたって事になるけど。隼一は告白したあとにそんな事を桜宮先輩に聞く必要はないよな。じゃあ、佳介が質問したのか。何の為に…?

「そうだね…確かにこの部員の中で気になる人がいる様子ではあったかな。だからって、それが恋心になるかは君達次第だよね。質問には答えたからうちの部室でお茶でも飲んでってよ」
「もちろん。喜んで!ね?正弥」
「…あぁ」

気になる人がいる…か。それがもしも隼一だとしたら、付き合うだろう。

ピンポンパンポン

俺が考え事をしていると放送室からの連絡音がなった。

「桜宮和香。早急に生徒会室に来てくれ。もう一度言う。桜宮和香。早急に生徒会室に来てくれ」

ピンポンパンポン

「うそ…呼ばれちゃった。この荷物を持ったまま、行くのはちょっとあれだから…預かっててくれる?後で、取りに行くから」
「あ、はい」

桜宮先輩は俺達にお茶の袋を渡して走り去って行った。早い…。あの先輩、本当は運動部なんじゃないのか。

「正弥。教室戻る?」
「…あぁ…何も聞けなかった」
「俺はあれで良かったと思うけどな。やっぱり、本人に聞いた方がいいと思うんだ」
「栄…。お前…」

栄はやっぱり、何かに感づいてる。栄には今まで色々と相談はしていたが、この事も相談した方がいいのだろうか。本人に聞いた方がいいか…。って、聞けるわけないだろ。

「正弥、甘い…」
「は?何が甘いんだよ」
「これ…」

栄は食べかけのマドレーヌを指差しながらそう言った。

「そうだな。甘いな…」
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