ラッキーセブン部
第十六話 気付かない心
布団が吹っ飛んだ〜とかはダメだよね。俺でも面白くないと思うから。何か良いのはないかな。
文化祭二日目の放課後、俺らはいつものように部室に集まったけど皆の顔が一様に暗くなっていた。そして、俺は今、何とか楽しい話を切り出そうと考えている。
暗くなっている原因はなんとなく分かるけど、このままではダメだよね?折角の文化祭だから楽しまないと…。

「久しぶりに皆でポーカーしようよ」

俺がいつものようにそう提案すると皆はハッと我に返った顔をして俺の方を見た。

「…ポーカーはいいが、栄に勝てないゲームは今はやりたくないな…」

しかし、正弥は遠くを見つめるような顔でそう言った。

「じゃ、じゃあ、俺抜きでやってよ。それなら良いでしょう?俺、観客側に立ってみたかったからさ」
「それもそれで面白くないのよね。ポーカーじゃない他のトランプゲームってないの?」

俺の提案を聞くと、笹井先輩は顎に手をやって考えるポーズをしながら俺にそう言った。
他のトランプゲーム…か。団結力が生まれるようなゲームあったっけ?

「お邪魔します!!お茶…取りに来たんだけど、今…良い?」
「和香!」
「桜宮先輩!」

俺が悩んでいると、桜宮先輩が隣の生徒会室と俺らの部室を繋ぐ扉から入ってきた。
渡されたお茶、まだ返してなかったんだっけ…。

「先輩。どうぞ…」

俺は机の上にあるビニール袋に入っているお茶を桜宮先輩に手渡した。桜宮先輩はそれを笑顔で受け取った。

「ありがとね。折角だから皆でこれ飲もうよ。作ってあげるよ?」
「道具が…ないですよ?」
「生徒会室にあるから、ちょっと皆来てよ」
「え…いや…でも…」
「早く来てね」

威圧的な口調で言いながら、桜宮先輩は俺達の一人一人の顔を見た。そして、最初に入って来た扉から生徒会室へと去って行った。
桜宮先輩が隣の生徒会室に消えると皆はそれぞれ複雑な表情をしていた。

「…早目に返した方が良かったな」
「そんな事ないですよ。お茶が飲めるなら良いです」
「いつでも前向きだね。倉石君は」
「フン…。佳介の取り柄は運動だけだと思ってたけどな」

あれ…でも、さっきよりは空気が柔らかくなったかな。

「じゃあ、皆で緑の物体を飲みに行こう!」
「お茶な…」

すかさず、正弥に指摘されたけど間違いは言ってないと思うな。

ー生徒会室ー
俺らは桜宮先輩と同じように生徒会室と部室をつなぐ扉を通って生徒会室に来た。他の人はどう思っているか分からないけど、俺は初めて入った生徒会室を見て少しだけ驚いた。部屋の大きさは俺らの部室とたいして変わらないはずなのに、棚がたくさんあるせいかどこか狭く感じられる。それにその棚の中に入っているのは資料のような紙やファイルでそれらがぎっしりと陳列してあった。机の上にも資料が山積みになっていて今にも崩れそうだった。そんな堅苦しい雰囲気が漂っている中で桜宮先輩は一生懸命、茶を立てていた。椅子に座りながらやっているのであまり趣が感じられないが手つきなどはプロ並みであるようだった。
ここが畳の部屋だったら良かったな。

「あ、適当に座って良いよ。七恵は少しだけ手伝ってくれる?」
「うん。もちろん」

桜宮先輩のおかげで笹井先輩が
抜けたため椅子取りゲームのような事は起こるのは免れた。その結果、俺の左隣が正弥で右隣が佳介そして、佳介の隣が隼一という順番になった。長机だからそこまで隣との間隔はギスギスとはしないが男が四人横並びで座るのは少し…。俺らの前に座っている笹井先輩と桜宮先輩は仲良さそうに一緒に茶を立てていた。
今、思ったけど笹井先輩は中学校が同じ人って佳介だけなのだろうか。ここは私立高校だし同じになる人は少ないとは思うけど…。

「はい!出来たよ。飲んでみて」

考えに更けってからまもなくそんな声が聞こえてきて俺は我に返った。俺らの一人一人の前にはお茶の入ったお椀がいつのまにか置いてあった。
何か、この光景、試食会みたい…。意味的には間違ってないか。

「あ、でも、一人だけすごく苦いかも…」

俺らが皆、お茶に口をつけたあとにそんな言葉を桜宮先輩が呟いた。その直後、俺の口の中で苦い薬のような、いやそれ以上の苦味が舌に広がっていった。

「に、にがっ!」
「ごめんね。茶菓子あげるから許して、ね?」
「茶菓子!食べます!」
「はい。どうぞ」

桜宮先輩はすかさず、ポケットから小袋を取り出してその中に入っている茶菓子をいくつか俺の手の上に置いた。ピンクや白色の花の形をした茶菓子は俺の手の中でコロコロと転がった。
お茶は苦かったけど、これが食べられるなんてラッキーじゃん!

「…先輩。茶菓子で許してもらうのはどうかと思いますが」

俺と先輩がそんなやり取りをしていると隼一は呆れた顔で見ていた。

「ヤンキー君は細かい所をついてくるね。別に茶菓子で許してもらうくらい良いでしょう?…ヤンキーのくせに」

桜宮先輩はずいぶんとヤンキーという単語に重点を置いているような気がした。何かあったのだろうか…?
その事に気付いた隼一は少し苛立った感じで口を開いた。

「先輩は不良に偏見を持ってるんですか?ヤンキーも個性だから別に良いだろ。あんたには関係ねぇんだよ」

この2人何の喧嘩をしているんだろうか。隼一は段々とタメになってるし。いや、そもそも、隼一が敬語で話してたという事の方が驚きだけど。
他のメンバーは下を俯いて矛先がこちらに向かないように沈黙を守っていた。

「個性だから良いなら今の状況だって私の個性なんだから良いでしょう?」
「それは良いかもしれないけど、人を巻き込むなよな」
「あんただって、人を巻き込んできたでしょうが!!」
「うるせ!あれは仕方がなかったんだよ!」
「不良やってて、仕方のない事なんてないでしょ!!」

喧嘩は収まる事なくヒートアップして2人は机を挟んでの口論を繰り広げ始めた。それに耐えられなくなったのか正弥はため息をつくと、口論に加わっていない俺ら三人に目で合図を送った。

『部室に戻ろう…』

俺らは深く頷くと、同時に立ち上がり部室に駆け足で逃げた。

「あ!おまえら!」
「話し終わってないからね!ヤンキー」
「嘘だろ…!」

俺は隼一の叫び声と共に生徒会室と部室をつなぐ扉を閉めた。
ごめんね。隼一。

「まさか、あんな事になるとは…やっぱり、早目に返しておくべきだったな」

部室の椅子に背を持たれかけると正弥は疲れ切ったようにそう言った。

「そうね…。私がお茶を立てなければ良かったね」
「も、もしかして、苦いお茶を作ったのって…笹井先輩ですか?」
「ちょっと…量を間違えて」
「栄先輩。そんなに苦かったんですか?」
「ま、まぁ、飲めなくはなかったよ」

いや…全く飲めなかったけど、笹井先輩の前でそんな事を言えるわけないから、ここは誤魔化す。



数分後、隼一はやつれ顏をしながら部室に戻ってきた。そして、ドアの隙間から見えた桜宮先輩は少しだけ、悲しみに満ちた顔をしていた。一体、何の話をしてたんだろうか。

「…佳介。俺を家まで送れ」
「え…何で」
「…来い」

そして、佳介は引きずられるように隼一と一緒に部室を出た。

「私は一人で帰るね」
「あ…はい。じゃあ、正弥…」
「今日の活動は終わりだな。栄…その…。話があるから一緒に帰るぞ」
「うん」

正弥と2人で帰る道のり。俺は考え事をしていた。隼一が桜宮先輩と口論していたあの様子を見て、昔になんらかの事件があるんだろうなと思っている。俺にも昔、事件あったもんな…。あの時の俺はどうかしてた。親友を失うなんてな…。あいつ…今…どうしてるかな。今更、会えるわけないしな。

「…おい、栄。話、聞いてんのか?」
「あぁ、ごめん。聞いてなかった。何の話?」
「だから…隼一が笹井先輩に告ってた…」
「ふーん…って、えっ!?隼一が?」

隼一が笹井先輩に告ったのか!
まさか、佳介より先に告白するとは…。でも、決断力が早いのは隼一だもんな。

「で…、笹井先輩はそれに何て答えたの?」
「いや…そこまでは聞いてない」

そこまでは聞いてない…か。正弥らしいな。でも、さっきの2人の様子だと、多分、笹井先輩は断ったな。だけど、隼一は諦めてないって所かな。皆が暗かった理由がなんとなく分かって良かった。いや、良くはないか。こっから、どうするかが問題だから。

「正弥。気にすることないよ」
「お、俺が…気にしてるわけないだろ」

正弥…完全に気にしてるじゃないか。こういう展開になったのは全て俺のせいなのかな。このままだと部員が一気に減ってしまう。どうせなら、女子をもう一人増やすとか。それに適任なのはやっぱり、桜宮先輩だな。7…7…。確か、茶道部は七番目だったよね。
よしっ!いける!

「何、ニヤニヤしてんだよ。隼一が告白したのを喜んでるのか?」
「ん?違うよ。新しい部員について考えてたんだ」
「新しい…部員?」
「桜宮先輩なんてどうかな?」
「却下」

俺がそういうと正弥に即答された。

「え〜何で?」
「まず、この部に女子を入れる事に俺は反対してたはずだぞ。それに桜宮先輩と隼一は仲が悪いだろ」
「でも、そうなると、男子を後、三人集めないといけないんだよ」
「そんな事は分かってる…」

男子を増やす…。無理だよ〜。いや、でも、きっと身近にはいるはず。俺はそう信じたい。隼一だってせっかく宣伝してくれたんだから。

「俺は図書館に寄ってから帰るけど、栄はどうする?」
「ん…一旦、家に帰らないと怒られるから帰るけど。もし、図書館に行けたら連絡するよ」
「分かった。連絡待ってるよ」

正弥はそういって微笑むと俺に背を向け図書館に向かっていった。
なんだかんだ言っても正弥は芯が強いな。俺も見習わないと。
あれ…?あそこにいるのって…。

「笹井先輩。何してるんですか?」
「あ、あはは。バレちゃったか」

電柱に隠れてるなんてバレバレでしょ…。

「今の話、聞いてたんですか?」
「…ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」
「どこから聞いてました?」
「ん〜と。新しい部員がどうとかいう所から」

おっ!隼一告白事件は聞いてなかったのか。ラ、ラッキー。

「そういえば、先輩。こっち方向じゃないですよね?家」
「あ、そうそう。坊ちゃん、落し物してたよ。はい、これ」
「あ、ありがとうございます」

笹井先輩の手から俺の手へと落し物が渡された。
俺の手の中には寂しげにポツンと小さい水色の御守りがあった。
御守り…いつ落としてたんだろうか。

「それ…大切なものでしょ?名前書いてあったし…」
「あ…はい。…親友との御守りです」
「えっと…しょうって読むのかな?」
「はい。上條渉って言うんです」
「…上條?どっかで聞いた事あるな〜。どこだっけ…。喉まで出かかってるのに〜」
「あ、あの…先輩」
「ま、いっか。私、これから塾だから、また明日ね」
「笹井先輩っ!本当にありがとうございましたっ!」
「私は和香を部員にするのは賛成だから」

笹井先輩は俺に微笑んでからきびすを返して帰っていった。
…先輩がモテる理由が分かった気がする。
御守りか…。あいつ、これをまだ持ってたりすんのかな?

チャリン

ん?なんだこれ…。
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