ラッキーセブン部
第十八話 いろんな人との関わり
プルルプルル

ガチャ

『…はい』
「も、もしもし…」
『あ…もしかして、図書館であった7を持っている方…ですか?』
「ん?…あ、あぁ!あの時の…!」

俺は二度しか会ってないはずなのに、その声を聞いただけであの子の顔をすぐに思い出す事が出来た。それと同時に栄がどうしてあんなに喜んでいたのかも理解した。

『あの時は本当に突然でごめんなさい…』

電話口であの子は申し訳なさそうに謝っている。俺も何かを言わないと…。

「いや…おかげで楽しい部活を作れてるよ」
『そうなんですか?そう言ってもらえると嬉しいです』

あの子は本当に嬉しそうにそう言った。その声を聞くと俺はつい笑顔になっていた。すると、横で栄が話したそうに右往左往としていた。
一番、話したがってたのは栄だし、代わってやらないとな。

「今…もう一人の方と代わる、栄。ほら」
「えっ!良いの?」

栄はわざとらしく手を震えさせながら俺から電話を受け取った。

「も、もしもし…。俺のこと覚えてる…?うん…そうだよ。…えっ!それ、本当?嬉しいな〜。今はね、俺ら含めて四人揃ってるよ〜。あ…また代わるね」

一言二言、話しただけで栄は俺にニコニコしながら電話を返してきた。

「もう…良いのか?」
「うん!」
「…もしもし。あいつ、すごい喜んでるんだけど何の話してたの?」
『あ…実は今年の冬くらいに戻って来れそうなんです』
「なるほど。じゃあ、早くメンバー集めないとな…」
『多分、私のお姉ちゃん留年するので、もしかしたら、同じ学年になるかもしれません。その時はよろしくお願いします』
「そうか。同じ学年に…」
『はい』
「まぁ…それ以外にも何か分かったらあいつに電話してやってくれ。あいつの番号は相変わらず7だから…じゃあ」
『ありがとうございます。…では…』

俺は電話を切り、隼一の姉さんに返した。

「さすが、部長さん。しっかりしてるね〜。感心するよ」
「…ありがとうございます」
「それよりっ!正弥!何の話してたの?」
「別に大した話はしてない。栄に電話してくれって事は伝えたけど」
「そっか〜。あ…名前、聞いとけば良かったかな?…そういえば、隼一のお姉さんは何て名前なんですか?」
「あたしの名前は『ひな』だよ。緋色の緋に奈良の奈で『緋奈』普通に緋奈って呼んで良いよ」
「はいっ!緋奈さんっ!」

栄が元気にそういうと、緋奈さんはクスっと笑った。
今の笑い方…隼一に似てたな。やっぱり、姉弟でも似てるところってあるんだな。
…何はともあれこの部の発端になった子と話せて良かった。近い目標も立てれそうだ。問題は…この部の存続か…。もし、今年、俺達の目標が達成されればこの部は必要でなくなる。しかも、来年は…笹井先輩がいない。あいつら、一年はそれでもこの部を続けようとするだろうか…。もし、俺達が卒業した時に無くなっていたりしたら少し寂しい気もする。

「用は済んだし帰るよ、隼一。じゃあね、お二人さん。部活頑張って」
「ちょっ!姉さん。く、首が…」

緋奈さんは俺達に爽やかに手を振ると隼一の首に腕をかけ、引きずるようにその場を去って行った。
それを見て、俺は自分に姉がいたらあんな感じだったのかと思って少し身震いをした。反対に栄はとても羨ましそうにそれを見つめていた。兄弟のいない栄にとってはこういうのって新鮮なものなのかもしれないな。

「…行っちゃったね」

二人の姿が見えなくなると栄は残念そうにそう言った。

「あぁ。そうだな…。栄はこれからどうするんだ?」
「別にする事ないけど…。正弥は?」
「目標作りでもするか。目標なんだが、この文化祭が終わったら、あと三人部員を入れるって事で良いか?」
「…うん。良いと思うよ。同学年の方が誘いやすいよね。確か、二年連続七組に双子がいるはず…。その人達を入れれば最強だと思うんだ」
「そういえば、いたな…。でも、あいつら生徒会役員だろ?忙しくて部活に顔を出せないんじゃないか?」
「…役員?正弥。あの双子と知り合いだったの?そんなの初めて聞いたよ」
「いや…お前な…。生徒会の人ぐらい覚えとけよ。栄、今年は委員だろ?」
「え〜、一回も見たことないよ」

一回も見たことないって…そんな事があるのか?栄がただ単に興味ないのかそれともそいつらが委員会に出てないのか…。俺は去年は委員やってたから、一応知ってるんだが。
どちらにせよ、俺はあの双子とはあまり関わりたくないがな。栄と同じであいつらも極度に賭けが好きだから…。

「正弥はあの二人と委員会以外で接点あるの?」
「…一応な…」

……あれは一年の二学期末の事だった

「お前!見るからに頭良さそうだな!今回のテストで俺達と勝負しろ!」

昼休み、俺の机の前に顔のよく似た短髪の奴が二人立った。
今日、栄は家の事情とかで休みだからヘルプを出す事も不可能。ここは俺一人で何とかするしかないか。

「…嫌だ。というか、そもそも、お前ら誰だよ」
「俺達の事を知らないだと!一年七組の戸越賢一と…」
「同じく七組の賢治だっ!」

うわ…よく分からないけど、栄よりテンション高い。隣のクラスの…双子…?やっぱり、俺が知るはずもない。それにテストの点数で競うのはどうかと思うが…。
俺が黙って俯いていると、どちらか分からないが焦った声が聞こえた。

「何でも万能双子を知らないのか?よしっ!まず、俺達の見分け方を教えてやろう」
「いや…しなくていい」
「まず、俺、賢一は左頬に傷がある」
「んで、俺、賢治は右頬に傷がある」

俺の言う事は気にせず、見分け方の説明をする二人。
…確かに左右対称に顔に何かで引っ掻いたような傷がある。

「…その傷、どうしたんだ?同時に熊にでも引っかかれたのか?」
「惜しいね〜。正解はサルに引っ掻かれたでした」
「幼稚園生の時に動物園に行ってサルを賢一と一緒に抱っこしてたら、サルが両手でビシッとね」

熊に引っ掻かれたっていうのは冗談のつもりで言ってみたんだけど、まさか、サルに引っ掻かれたなんてな…。
そんな事件がなかったら、この二人を見分けるのは難しいだろうけど。
…いや、感心している場合じゃないな。

「…お前ら、俺の名前は知ってるのか?」
「知るわけないだろ?隣のクラスなんだから」

いきなり、正論を言われた。何なんだ、こいつら。知らないのに賭けをしようとか…。
俺はため息をつきながらも、自分の名前を言うことにした。

「お前らの名前だけ聞いとくのもなんだから俺の名前も教える。俺の名前は荻野正弥だ」
「ふーん。正弥って言うのか」
「よしっ!名前も分かった所で賭けをしようぜ」

結局…するのか。俺がまた深くため息をつくと賢一が片眉を少し上げた。

「テストが嫌なら運動でもするか?」
「いや…テストで良い…。科目は何だ?全科目か?」

すると、賢治がサイエンスのSに見立てた指を作った。

「化学のテストで100点を取ったら勝ち!」

万能双子とかいいながら、化学のテストしか賭けないのか。でも、それだけ化学のテストに自信があるということなのだろう。

「…それで何を賭けるんだ?」
「ん…そうだな。自分の大切なものなんてのはどうかな」

自分の一番大切なものか…

「いいよ。その条件でやろう」

俺が頷くと嬉しそうに双子がハイタッチしたのを覚えている…。



「話の内容的に全然問題なさそうなんだけど、どうして、そんなに嫌そうな顔をしてるの?」
「いや…まぁ、賭けは良かったというかどうでも良かったんだけどさ…。あいつらの賭けたものに問題があるんだよ。あいつらは自分達を賭けに出したんだ」
「じ、人身売買っ!?」

栄は大げさに驚いた顔をした。

「いや…ちょっと違うだろ。俺が勝てばどちらかをこき使わなくちゃいけない。俺はできればそんな事をしたくないから…」
「もしかして…正弥が一年生の時にテストで一回だけ五点取れなかったのって…」
「そいつらのせいだな。引き受けた手前、断りにいくのが面倒臭いし。おかげで、化学の先生に心配されたよ。俺のテストどこか間違ってたかって?」
「それほどまでに、いつも満点な正弥に敬服っ!…で、それで正弥は戸越達に何をあげたの?」
「…四つ葉のクローバー」
「えっ!正弥がっ?」
「…そうだ。でも、あいつらは受け取らなくて今回の賭けは無しになったけどな。それからテストが近くなると、教室に来るから俺は逃げている」
「あぁ…だから、テスト近くの昼休みは屋上に行くんだね」

あの時は微妙にだが悔しかった。俺の5点が無駄になってしまったのだから。賭けの品物を変えるべきだったか?
栄は陽気に笑っているが、多分、俺の顔はそれとは対象的に引きつっているだろう。とにかく、あの双子も却下したい…所だが確かにあの二人以外に適任な奴はいないだろう。ここはあいつらを誘うべきか。この文化祭が終われば、すぐに期末テストだ。あいつらはきっと来るだろう。

「その顔は…正弥、双子を誘ってもオッケーって顔だね?良かった…。実はもう誘っちゃったんだよね」
「さ、誘った?」
「うん。今日のお客さん達の中にその双子がいて二年連続七組っていう話を聞いたから誘ったんだ。そしたら、考えとくって言ってた」
「俺がいない間そんな事があったのか」

栄はマジックやってただけじゃなかったんだな。俺よりも…仕事をしてくれている。さすが、本部長。

「そんなにたいしたことはしてないよ。…ただ、その双子を部員にしたかっただけ。そういえば、さっき話してた四つ葉のクローバーって今持ってる?」
「ん?そうだな。さっき、借りた本に挟んだような気がするな。えっと…ほら、これだ」

俺は図書館で借りた本の間に挟まっているしおりを渡した。
そのしおりの中にはまだ、新鮮さのある四つ葉のクローバーがあった。

「すっごい!かわいい!正弥、これ買ったの?」
「いや。中学一年生の時に拾ってから、ずっと大切に持ってるんだ。妹に押し花みたいにしてもらったから枯れる事はないだろうな…」
「へ〜。麻弥ちゃんが…。久しぶりに麻弥ちゃんに会いたいな」

麻弥か…。栄があったのっていつだっけ…?

「…じゃあ、会いに行くか?実は、小学校この近くなんだよ」
「よしっ!行こうっ!」

そういうわけで俺は栄と共に麻弥の所に行くことになった。
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