ラッキーセブン部
第二一話 荻野の言葉
クラスの劇の最終公演を見てから私達は部室に戻った。

「たっだいま〜!お店の方はどうだった?」

坊ちゃんが元気良くドアを開けると倉石君と近藤が部室の飾りの片付けをしようとしているところだった。近藤は作業を続けながら呟くように返事をした。

「…別に問題は…なかった」
「そうですね。マジックの問題はありませんでしたよ」

二人ともテンションがワンランク下に落ちた感じなんだけど…何か、あったのかな。

「マジック以外に問題でもあったのか?」

荻野もそれを感じ取ったのか、心配そうに倉石君に聞いた。

「あ…えぇと…この部活に入るって言ってきた双子が来ました」
「え、本当?誘った甲斐があるな〜」

倉石君の言葉を聞くと坊ちゃんは嬉しそうに笑った。
双子…?この部活にまた部員が増えるんだ…。てことは…その二人が入ったら七人が揃うってことか。
…ラッキーセブン部…あんまりこの部そのものを意識したことなかったけど。七人揃うとなんか達成感が湧いてくる。その双子も楽しい人達だと良いな。ま、坊ちゃんが誘ったんだから問題はないか。

「…まぁ、良かったな」

だけど、荻野は少し戸惑いというか嫌がっていた。その双子の人達と知り合い…ってことは二年生か。

「少しは嬉しがってよ〜正弥」
「はいはい。で、その双子はいつからこの部に来るんだ」
「この部活の顧問の先生と話をして正式に入部届けを提出してから来るみたいでした」

入部届け…。今まで、この部活は非公認だったから私はもちろん倉石君や近藤も書いてないよね?
…でも、入部届けもどきは荻野と坊ちゃんに書かされたか。

「ん?…そういえば、この部活の顧問って誰なの?正弥」
「吉田先生に決まってるだろうが」
「「「えぇ〜!!!」」」

荻野の一言でその場にいる全員(私も含めて)が驚きの声をあげた。
一番、この部活を無くそうとしていた先生が私達の顧問になるなんて想像もしていなかったことだから。それにあの先生色々と部活を掛け持ちしていたはず…。

「ああ見えても、吉田先生は頼れる先生だからこの部活の顧問には相応しいと思うけどな」
「いやいや…そういう問題じゃないでしょ。それにやっぱり、顧問も7を持ってる方が良いと思うよ…正弥〜」

バタン

「この部を承認してやっただけいいと思えよ!」
「皆、今日はもう解散!」
「「お疲れ様でした!!」」
「ちょっと待て!お前ら!何で無視するんだ」

生徒会室と通じるドアからいきなり出て来た吉田先生から逃げるように私達が帰ろうとすると吉田先生は焦りながら荻野の肩を掴んだ。

「帰るなって…」
「…冗談ですよ」
「お前の目、冗談を言ってないぞ」
「そんな事ないですよ。それより、いきなり、入ってきてどうしたんですか?」

荻野は呆れ顔で肩から吉田先生の手を取り払いながらそう質問をした。

「そうだな。えっと、まず、文化祭お疲れ様。あの余興はなかなかだった。お前らに任せて良かったと思う」
「「ありがとうございます」」

本当にあんな感じで良かったのかと内心焦ってはいるけど、任せた本人がこんなに喜んでるんだから良いってこと…だよね。

「で、本題はこの部の正式の顧問になった俺のあいさつと新入部員の話だ」
「新入部員って双子のことですよね?」
「あぁ、そうだ。お前ら、こっち来い」
「へーい」
「ほーい」

吉田先生が生徒会室の方を向いてそう言うと顔のよく似た二人がこちらの部屋に颯爽と入ってきた。どこかで見た事があるような気はするけど思い出せない。少し短髪の二人は顔立ちがくっきりとしていて女子にモテそうな感じだった。つまり、イケメンって事だけど。でも、私がそれより気になったのが近藤の表情。双子が入ってきた瞬間に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。私達がいない間に何があったのか、ますます気になる…。
近藤の表情とは反対に吉田先生は二人が自分の横に立ち並ぶのを確認すると息子を紹介するかのような嬉しそうな表情をした。

「笠森が…誘ったんだよな?俺の生徒会役員を」
「生徒会役員?…戸越兄弟って…生徒会役員だったの!?」
「そうだよ〜。俺達は生徒会役員」
「とはいっても、補佐及び雑用係だけどね〜」
「それでも優秀だから良いじゃないか」
「なんて言ったって、俺達は万能双子ですから」
「出来ないことなんてないですよ」

補佐及び雑用係。…だから、何か見た事がある気がしたんだ。確か和香と去年、一緒に活動してた気がする。きっと、その時も補佐及び雑用係だったんだ。…でも、何でそんな脇役の仕事をこの双子がしているんだろう。そういう仕事でも正式な生徒会役員として認められるから?にしても、生徒会役員するなら書記とかでしょ?…それに吉田先生はこの二人を結構気に入ってるみたいだし、もっといい仕事を任せてくれても良いはずじゃないの?

「あ、お前らちょっと待ってろ。良い物持ってきてやるから」

吉田先生はニコニコしながらそう言うと小走りで部室を出て行った。

「先生いなくなっちゃったか…。その間に自己紹介しましょうか。まず、俺達の見分け方は…」
「それはもう聞いたから良い。左頬の傷が賢一、右が賢治だろ?」
「やはり、正弥は物覚えが良いな。今度また賭けやろうな!」
「いや…遠慮しとく」
「さてと。俺らの紹介は終わったし…この部の部員の紹介してよ」
「…紹介短くないか?」
「正弥。細かい事は気にしないで。前から気になってたんだよね。隣の部屋からいつも楽しそうな声が聞こえてくるからさ」

色々と話が双子のペースになって来ている気がするのは私だけかな。
荻野は仕方ないという感じでため息をつくと一歩前に出て、私達の紹介をし始めた。

「じゃあ、俺達、ラッキーセブン部の部員の紹介をしよう。俺の名前は荻野正弥この部の部長だ。で、そこのトランプいじってるのが笠森栄。一番大人しいのが一年の倉石佳介。その横のが、同じく一年でヤンキーみたいだけどヤンキーじゃない近藤隼一…そして…」

だけど、荻野は私の事を紹介しようと口を開きかけたがすぐに閉じた。

「…以上が俺達の部員だ。よろしく」
「あれ?そちらの方は?部員じゃないの?」

双子の一人は不思議そうに首を傾げると荻野以外の人も荻野の事を少し訝しんで見た。

「…あぁ、笹井先輩は部員じゃない」

すると荻野は声を落としてそう言った。

「ま…正弥…?」
「何度も言わせるな。笹井先輩は違う」

私は荻野のその言葉を聞いた瞬間、複雑な感情が込み上げてきた。
私…、荻野に部員として認められてなかったっていうの?この数ヶ月間、一緒に活動してきて…それはないでしょ…?それじゃあ…。

「…それじゃあ、荻野は私の事をずっとなんだと思ってたの?あんたは最初から最後まで失礼にもほどがあるでしょ!バカっ!」

私は悔し涙が見られるのが嫌で走って部室から出た。

ドン!

「うぉ?何だ!?」

廊下の曲がり角で吉田先生にぶつかったけど、そのまま、何も言わずその横を通り過ぎた。今は誰にも顔を見られたくないから。



無我夢中で走った。自分は今、どこを走ってるのかも分からない。しばらく走っていると私の鼻先に雨粒がポトンと落ちてきて、私はやっと我に返った。そしていつの間にか学校の最寄り駅の所まで走ってきていた事に気がついた。ポツポツと雨が降ってきてるから一旦、雨宿りはした方がいいよね…。ここまで来てしまったのは良いけど…実は部室に荷物を置いてきたままでその荷物の中に定期が入っている。取りに戻るとしても今から学校に戻ったりしたら、途中で雨がさらに降ってきてしまうかもしれない。それに部室に戻るときっと…荻野達はまだいるから簡単には戻ることなんてできないよね。今日は…歩いて帰ろうかな。そうすると雨が止むまで待ってから行かないと…。でも、この雨いつ止むんだろう。早く向かわないと家に着く頃には真っ暗になっちゃうのに。

「はぁ…」

灰色の空を見上げて私は大きくため息をついた。
…どうして、荻野はあんな事言ったんだろう。
…どうして、荻野のこんな一言で心が悲しくなるんだろう。
…どうして…?
雨宿りしているはずなのに私の頬が濡れてるの?
今までのラッキーセブン部での思い出が私の頭の中でぐるぐると回る。そんなに昔でもないのに懐かしく思える。
…私はラッキーセブン部にとって、どういう存在…?
荻野にとって、私はどういう…

「はぁ…」

再び私は大きなため息をついた。するとふいに誰かが私の肩を掴んだ。

「だ、誰!?」
「あ、ご、ごめんなさい。…俺です」

聞き覚えのある声がしたから私はゆっくり声の聞こえた方に振り向くと私の荷物を濡れないように必死で抱えながら息をついている人がいた。
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