ラッキーセブン部
第三十話 嫌悪の中の期待
仏頂面の隼一が俺の事をジッと見つめている。その眼差しはまさしくヤンキーそのものと言えるだろう。だけど、その眼に怒りは宿していなかった。
ここまでの解説は一部嘘です。
隼一の視線は俺ではなく正弥に向いていてその眼は怒りというか闘志に燃えている感じだ。

「俺が料理対決で勝ったら、そのカードくれよ」
「負けたらどうするんだ?」
「俺が負けるわけないだろ」

女子会ならぬ男子会をしようと思ったのだけれど、そもそも女子会が何をやるのか知らない俺は携帯で調べてみた。すると、食事をしながら談話することだと知ったのだけれど…。
隼一に『お前らと談話する意味がない』と一蹴されたので、料理対決カード争奪戦が始まった。
俺と佳介は料理を全くしたことがないということで調理は断念し、この対決の審判側になった。

「ていうか、正弥。料理出来たんだ…」
「まぁ、父親と二人きりだからな。料理くらい覚えないと毎日カップラーメンになるだろ。それより、俺にとって隼一が料理出来ることの方が驚きだけどな。一人暮らししてるからか?」
「姉さんに強制的に覚えさせられた」
「緋奈さん、料理上手いの?」
「いや、姉さんが料理作れないから俺がやらされ……やってる」

緋奈さん…料理作れないのか…。会った時の印象通りだ…。緋奈さんは自分で作るよりも外食派のような気がしたから。

「さて、そろそろ作るか。栄と佳介、暇だったら外に出ててもいいぞ。俺と隼一の料理がそれぞれ出来たら呼ぶから」
「あぁ。人が一人以上いると、気が散るから他のとこに行ってもらえると俺も楽だ」

正弥と隼一が口々にそう言ったので、俺と佳介は顔を見合わせた。

「外行きますか?」
「そうだね。じゃあ俺ら外に出るから、がんばって」
「「あぁ」」

正弥と隼一を二人きりにするのは少し不安だけど二人の間で何かが変わるキッカケになると信じよう。
佳介も俺と同じ思いなのか不安な顔で隼一を見てから俺と一緒に外へ出た。

〜隼一の家の外〜

夕暮れになりつつあるにも関わらず、外は暑い。…一応、夏だもんな〜。そろそろ俺の家のプール開きでもして部員のみんなで遊ぼうかな〜。

「あの…先輩達はどうして戻ってきたんですか?」

俺がそんな夏休み計画を考えていると急に隣から問いかけの声が聞こえてきた。
…一人で考え事をしていて、すっかり、佳介の存在を忘れていた。

「先輩。今、ひどいこと考えてません?じゃなくて、戻ってきた理由ですよ!」
「ん〜……。さっきまでヤンキーがここら辺をウロウロしてたから隼一の身に何かあるのかもと思って…。だけど、思っただけで、すぐには戻ろうと思わなかった。それより、コンビニに目が行ってて…」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

佳介が走り去った後、残された俺らは普通にエレベーターで一階に降りた。…マンションを出てからちょっとすると俺はある物を目にして指を指した。

「あ!」
「どうした。栄」
「…正弥。耳貸して」
「ん?」
「…あそこのコンビニ、アイス半額だって…」
「お、おぉ。ていうか、そんな情報を耳打ちする必要ないだろ。それより手前のやつを気にしろよ」
「…そこにいる人が怖いから耳打ちしてるんだよ〜」

…そう。俺らの目の前…数m前に隼一と同じような、それ以上の鋭い目つきの図体の大きい男が立っていた。どこかでこの人に会ったような気がする。
すると、その人は正弥と俺を見るとそそくさと何もなかったかのようにその場を離れた。
…良かった。あの人の前を通ってコンビニに行く勇気なかったから。

「なんだ……あいつ。不気味だな」
「モナカ……アイス。雪見だな」

ゴッ

「…っ。正弥、殴らないでよ」
「シャレなのか、分からない、ボケはすんな。ていうか、どんだけアイス食べたいんだよ」
「だって…こんなに暑いんじゃ、冷たいもの欲しくなるでしょ」

俺の思考に今、アイス以外の単語はいらないよ。早く喉を潤さないとサハラ砂漠になってしまう。
正弥は一つため息を吐くとコンビニに向かって足を進めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それで…そのまま帰らなかったんですか?」
「帰ろうとしたら、佳介と隼一がベランダで不思議なことをしてるから」
「見てたんですか…」
「目はいい方だからね。見えたよ」

俺の言葉を聞くと佳介は丸い目をさらに丸くして驚いた表情を見せた。そこまで驚くことはないだろう。七階くらいなら普通の人だって見えるはず…。でも、正弥は見えないって言ってたから無理なのかな?

「先輩は…色々持ってて良いですね」
「え…?」
「栄先輩は才能にも身体能力にも恵まれてる…それに運にだって恵まれてるじゃないですか」

俺が…恵まれてる。確かに絵は描けるし目はいい、ポーカーでもあまり負けたことはない。そういったことでは恵まれてるのだろう。でも…だとしても人それぞれ恵まれてる物は違う。佳介にだって恵まれてるものはあると思う。

「佳介は変なこと言うね」
「…そ、そうですか」
「俺は今、恵まれてる方が逆に怖いよ。恵まれなくなった時、どれだけ恐ろしい状況なのかってね」
「恵まれなくなる時って…あ、あるんですか?」
「…一時期あったな〜」
「一時期?…なぜですか?」
「んー…俺の話はもう終わり。…佳介には関係ないことだよ」

佳介は他にも何かを言いたそうだったが口を噤んだ。
それにしても…佳介はなぜ急にそんなことを言ってきたんだろうか。

トゥルル…トゥルル

俺に考えるのをやめさせるように携帯が鳴った。

「正弥からか〜。もしも〜し」
『緊急事態だ。早く戻ってきてくれ』
「何かあったの?」
『あ、あぁ。ちょっと…な』

正弥は含みのある言い方をすると電話を切った。
いい予感がしないんだけど…。戻るしかないよね。

「佳介。戻るよ」
「は、はい」
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