ラッキーセブン部
〜再び隼一の家〜

鍵の開いている部屋に入ると、すぐに異変を感じた。玄関にさっきまでなかったはずのサンダルが置いてある。一体、誰が隼一の家に…?

「あ、さっきのイケメン君!どこ行ってたの?」

その刹那、隼一のお姉さん、緋奈さんが居間から出てきて佳介に話しかけた。
…というか、あだ名がイケメン君って。恵まれてるじゃないか。佳介

「少し散歩をしていました。あの…隼一は…?」
「隼一なら部屋の隅で猫みたいに丸くなってるよ」

猫みたいに…丸く?
居間に入ると確かに窓の近くの隅で体育座りをして丸くなっている隼一がいた。その隣にセブンもいる。
俺は猫に話しかけるかのごとく、しゃがみ込み、隼一に話しかけた。

「隼一。どうしたの?」
「…取られた」
「え?」
「激レアカードを取られた!」
「あれ?そういえば、正弥は?」
「聞いといて無視すんな!」
「少し落ち着け隼一。俺はここだ、栄」

キッチンから顔を出した正弥は哀れみの眼差しを隼一に向けた。俺らがいない間に一体、何があったんだ。

「栄先輩…もうカード無いんですか?」

隼一は俺の肩をガシリと掴んでそう問いてきた。
ヒィィィ…。隼一が違う意味で恐いよ。お姉さんの前だから敬語なのかはたまたカード欲しさに敬語になってるのか…。いや…両方か。

「う…ん。一応、封を開けてないのがあるけど…良いカードか分からないよ」
「そ、それください!」

隼一はさらに俺の肩を力強く掴んだ。
ま、麻薬中毒ならぬカード中毒者…。隼一ってこんなにカードに執着する設定だっけ?

「栄が怯えてるから離れろ。お前、俺との料理対決終わってないだろ」
「俺だってこんなやつに縋りたくない。それに、激レアカードを取られたのはお前のせいなんだからな!」

そう言って、隼一は正弥を指差した。差された正弥は申し訳なさそうな顔をしながら頭をかいた。

「料理をするのに邪魔だからそこの机の上においたら、緋奈さんが……取ったんだ。仕方ない。不慮の事故だ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、部長さん。あたしは料理対決を円滑に行うために預かっただけだから」
「嘘だ!ファイルに入れようとしたじゃねぇか!」
「汚れたら困るでしょ」
「だからって、わざわざ姉さんのファイルに入れなくてもいいだろ!」
「ふ、二人とも落ち着いてください!」

それまで存在感を消していた佳介は緋奈さんと隼一の間に割って入った。

「カードは俺が預かるってことではダメですか?」
「イケメン君が?」
「……あの…俺が一応審判なので預かるのは俺が適任かと」
「…まぁ、イケメン君が審判なら仕方ないか」

さすが…佳介。いざという時に、気が利く。これでゆっくり話ができそうだ。

「それで、正弥。料理できたの?」
「あぁ。なんとかな」

そう言って、正弥は机の上に料理を一品置いた。
…唐揚げだ。お、俺の好物!

「食べていい?」
「全部一人で食べるなよ」
「分かってるよ〜。いただきまーす」

唐揚げを一瞬、鑑賞してから、口に入れた。
ん……あれ?

「どうした、栄。まずいか?」
「いや…すごく美味しいよ…。だけど…肉の食感はしても味がしないんだけど」
「やっぱり良いのを食べてる栄には分かるか〜。実はそれ、こんにゃく唐揚げなんだよな」
「こ、こんにゃく!?まさかのダイエットメニュー!?肉は?」
「仕方ないだろ。隼一の冷蔵庫にある物で作ったんだから」

そんな俺らのやりとりを見ていた隼一は腕まくりをして立ち上がった。
カードが佳介の手に渡ったことで安心したんだろう。調理をしにキッチンへと入っていった。

「…おいっ!冷蔵庫、空なんだけど!」

数秒もしないうちにそんな怒鳴り声が聞こえてきた。

「正弥〜シェフから苦情来ましたよ〜」
「あぁ?さっきまでちゃんとあったぞ」

ちゃんとあったにもかかわらず…、こんにゃくと小麦粉しか使わなかったってことか…。

「姉さん!また俺の材料、勝手に取っただろ!」
「うん〜。この間のレストランのチケットのお礼をしようと思って新鮮な野菜を少々もらったけど?」
「…姉さんはいつもいつも…勝手なことばかりしやがって……」
「そんなに怒らないでよ。あんたはいつも家賃支払えなくてこっちに逃げ込んできてるんだから、お互い様でしょ」

…姉弟喧嘩…怖いな…。ここは、佳介のように気を利かせて喧嘩をやめさせないと…。

「…そういえば、緋奈さん。どうしてここに来たんですか?」
「あ…一番大事なの忘れてた。…部長さんもいるし、部員もいる。これなら完璧ね」
「何のことですか?」
「例の子のは・な・し」
「七を持ってる人を探してる女の子ですか!?」
「そう。それでここからが重要な話だからよく聞いて」

俺らは息をひそめて緋奈さんの次の言葉を待った。

「…その子と…その子のお姉さんにあんた達、会えるかもしれないよ」
「「えぇっ!?」」

あ…会える?

「待ってください。この前、電話でその子は冬くらいに戻ってくるって言ってたんですよ。まだ夏ですよ…会えるんですか?」

正弥は疑いの眼差しで緋奈さんを見つめた。すると、緋奈さんは少し考えてから口を開いた。

「…親の都合上、一緒に出席しなければいけないから、一時的にってことじゃない?」
「なるほど…」
「あんた達もパーティーに出席すれば会えるんじゃない?」
「「パーティー!?」」
「そう、その子が出席するのは結構大きなところでのパーティーらしいよ」
「大きなところ…って?」
「ここから、見える。あそこのお屋敷のパーティー」

そう言って、緋奈さんはベランダの外の遠くを指差した。俺はその差された方に目線を移した。
…お屋敷って。

「おい。あっちの方角って栄の家だろ」
「…そうだね。俺の家だ」
「つまり、栄先輩のお屋敷で…パーティーが開かれて…その子が来ると…」

佳介がそう言うと、なぜか緋奈さんが驚いた表情に変わった。

「えっ!?ちょっと!君の家、あそこなの!?」
「そうですよ」
「じゃあ…笠森理事長の息子さん?」
「…はい…」

緋奈さんは俺を驚きの目で見つめていたが、そのあと、一瞬、宙に目を泳がせると佳介に視線を向けた。

「…イケメン君。そのカードの勝敗はどうなったんだっけ?」
「隼一が料理を作ってないので…今回はなしですね」
「…だよね。…でも、もし隼一が作ってたら隼一が勝ってたとあたしは思う」
「…は?姉さん?」
「あたしは〜…これから用があるから。じゃあ、がんばってね」

緋奈さんはそう言い残すと颯爽と帰っていった。

「先輩。どうします?このカード」
「カードは隼一のものでいいだろ。俺が持ってる必要もないし。…栄もいらないだろ?」
「…うん」
「うおっしゃぁあ!何もしてねぇけど、カードゲット!」

やはり、カード所望中の隼一は別人のようで恐ろしい。

「……そんなことより、さっきの話。栄の家でパーティーやるっていうのは本当なのか?」
「あぁ…うん。らしいね」

…あの金持ちの集まりに例の子も出席するってことは…その子も金持ち…ってこと…だよね。

「どうした、栄。顔色悪いぞ」
「そ、そう?気のせいだよ。そっか…あのパーティーに…」
「なら、栄。俺達も出席できるように手配してくれるか?」

…あんなパーティーに…俺が出席しないといけないのか…?

「…うん。分かった」

その子に会うために……出席を…。
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