ラッキーセブン部
第八話 何なんだよ…
ラッキーセブン部…。変な名前。こんな名前の部活があるなんて、この学校も大した事ないな。この部に入れば、ラッキーになるって?そんな馬鹿な事あるかよ。
俺はそんな事を考えながら、目の前に貼ってある、部活広告の紙を破り捨てた…。

昔から俺は目つきが悪いせいで、周りにはいつも変な輩がついて回っていた。俺がそいつらに命令すれば、そいつらは何でも言う事を聞いた。ただ、俺は他愛もない事しか頼まなかった。大きな問題が降りかかるのが怖かったから…。だけど、そいつらの1人が問題を起こした。俺は何も指示していないのに、ある1人の人物をイジメ始め、他の奴までがその人物をいじめるようになった。そして、何故か俺が先生に呼ばれ、その子をいじめるように指示したのはお前だと断定的に言われ、家族も呼ばれ、周りからは非難の目で見られた。俺は何もしていないのに、そんな目で見られたら…。俺は気付いたら本当に不良みたいになってしまっていた。家には夜の12時を回るまで帰らないし、普通に学校はサボるし、耳以外にもたくさんピアスを開けたり、飲酒、喫煙などもした。空手や柔道なども習っていたため、喧嘩も強かった。そのため、警察には何度かお世話になった。

しかし、悪い事をしていても、心が晴れる事がないとは自分でも思っていた。こんなになった俺だけど、心の片隅では誰でも良いから俺を救う人が現れてくれることを願っている…。

だから、俺は俺の事を誰も知らないし、知っている人も全くいない、この高校を選んだ。そのために家出をして、学校の近くのアパートを借りた。有名な私立高校なだけあって、俺みたいな不良は数少なかった。だから、俺は髪とピアスなどの外見だけを不良っぽくする事にした。

さっきから、先生が見ているのはそのせいだろう…。しかし、何も言ってこない。注意したければ、すれば良いのに。でも、気になるから…俺から声をかけてやるか…。

「何?」
「…いや、この授業が終わったら、ちょっと職員室に来い」
「はぁ?」

先公はそれだけをいうと、やっと俺から目線を外した。やっぱり、説教がしたいだけか。

けど、俺は先公に逆らう事はせず、仕方なく、授業の終わりに先公の所に行くことにした。

先公は偉そうに椅子に座って待っていた。そう…なぜか、偉そうに…。

「で、何?」
「近藤は入りたい部活ないんだろ?」
「部活なんて入っても、意味ないじゃないですか」
「別に意味なくないと思うが…」

あれ?髪とかピアスの事を注意するために呼んだんじゃないのか?

「…こんな俺を迎え入れる部活なんてないでしょう?」
「大丈夫。ラッキーセブン部になら君は入れるよ」

何、言ってんだ。この先公。俺に部活嵐でもさせたいのか?

「その部活に恨みでもあるんですか?」
「何でも良いから今日、見学にでも、行ってこい」
「わかったよ…。吉田先生」

ラッキーセブン部って、さっき、俺が広告破った部じゃなかったっけ…。というか、何で俺、こんなに素直に先公の言う事聞いてるんだろう…。あの先公の目が怖かったから…だよな。行かないと半殺しの目に遭うみたいな。
けど、とりあえず、俺は放課後。その部があるという、生徒会横に行ってみることにした。

…放課後。

部室に行ってみたが、誰もいなかった。あるのは、大量に部活広告の紙が入った段ボールだけだった。
…何でこんなに大量に刷ったんだ?貼るスペースなくなると思うんだけど。先公はどうして俺にこんな部活を勧めたんだろう?もしや、この部は実は不良の集まりなのか?

カサッ



俺は考え事をしながら、段ボール箱の中に入った紙を見ていると、変な黒い物体が動いたような気がした。気のせいだよな。あれ…じゃないよな?

カサッ

「うわぁぁぁ!」

紙の中を探ると黒い物体Gが俺の手の上に乗ってきた。俺は瞬間的に思いっきりその段ボール箱を地面に叩きつけ、大きく息をついた。何でこんな所に虫がいるんだよ!もしかして、飼育でもしてたのか?

「探し物…ですか?」

声のした方を振り返ると後ろのドアに誰かが立っているようだった。
やばい。今のを見られた?こんななりで虫嫌いとかばれたらダメだよな。とにかく、ここは逃げよう。俺は落とした大量の紙とGを気にしつつ、俺に声をかけた奴の横を通って走って逃げた。
しかし、角を曲がった所で俺は誰かとぶつかった。俺がふと顔をあげると怖い笑顔の吉田先公が俺を見下ろしていた。

「近藤…」
「俺の、ち、父親の病気が急変したので、帰ります!」

俺は咄嗟にそんな嘘をついて、先公から逃げた。
明日の命なんて知らねぇ!今日の命の方が大切だ。

そうして、やっと家に帰れると、家の前に数人の男子達がいた…。

っていうのが、昨日、俺の身に起きた事。あの部室に入った瞬間から俺はアンラッキーな事ばかりな気がする…。できれば、昨日の人達には会いたくない。
しかし、なぜか、昼休みに俺のクラスに、あの部活の人達が来ていた。

「生徒手帳、返してあげるからこっち来いよ!」
「あぁ、もう、うるせ〜!分かったよ!行けば良いんだろう」

俺はそう言い放ちながら、先輩達の所に行った。

「返せよ。生徒手帳…」
「俺達の部に入ったら良いよ」
「興味ないんだけど…」

俺が冷たくそう言うと、一人の先輩はなおも喰らいついてくる。

「可愛い女子もいるよ?」
「見ないと判断出来ない」
「正弥。連れてきて」
「何で、俺」

そんな先輩達を無視して俺が黙って、席に着こうとすると、どこから湧いて出て来たのか、目の前に吉田先公が立っていた。

「お父さんの容態はどうだ?」
「えっと…元気になったと思います」
「ちょっと、吉田先生。勧誘の邪魔しないでくださいよ」
「お前らの部に入るって昨日、言ってたはずだが…」

この世の終わりが見えた。この世の終わりが見えたよ!この先公、何なんだよ!俺に何の恨みが!俺は一言も入部するなんて言ってないぞ!

「本当かよ。素直じゃねぇな。じゃあ、放課後、部室に来いよ」

吉田先公とそいつらはそう言うと俺の教室から出ていった。ただ1人は残っていたけど。

「ごめんね。先輩達、強引で…。実は俺も無理矢理入らせられたんだ。でも、結構、楽しいからさ。近藤君も入りなよ」
「お前…俺の事、怖くないのか?」
「何で?容姿はそんなだけど、話し方、普通だし、吉田先生の事を怖がってるじゃん」

確かに正論だけど…吉田先公は誰でも怖いと思う。というか、俺、本当にあの部室に行かないといけないのか?

「…俺、近藤君を連れて行かないと、怒られるんだ。君には関係ないだろうけど」

そいつは本気で悲しそうな顔をしていた。あの時のあいつの目みたいだ…。いじめられていたのは、俺が悪いわけではないけど、見ているだけっていうのは、もっと悪かったのだろうか…。そんな事、俺に分かるはずもない。だって、あれはあいつがいじめられていたのが悪いんだから…。俺は、何も悪くない。

「し、知らねぇよ。勝手にしろ。それに俺はあの部室に入ってから、不幸な事しか起きてねぇし」
「そっか。…でも、俺も先輩もずっと待ってるから、気が向いたら来てよ。俺の名前は倉石佳介。よろしくね」

倉石もそう言うと、教室を出ていった。
俺を待ってる…?俺を待ってどうするっていうんだ。

『お前はこの部に必要だから…』
『俺も先輩もずっと待ってるから…』

必要とされてる…のか、この俺が。それとも…俺が試されてるのか…?何のために?というか…あの部活は本当に一体、何の集まりなんだ?全員、不良には見えなかったし…。

気になり出したら、止まらなかったから俺は放課後、仕方なくあのGが出た部室に行った。ドアを開けると、四人の人がいて、一人は女だ…。

「さすが、ちゃんと来たな。紹介しよう。この子が俺らの花、笹井先輩だ」
「恥ずかしい紹介はやめとけ、栄。先輩が困ってるから」

この人がこの部の唯一の女か。

「容姿は人並み…以上。しかし、スタイルは…普通。身長…小さい。まぁ、それなりですね」
「「「っな!」」」

俺が率直な感想を言うと、そいつらは目を丸くしていた。褒めてあげたつもりだったんだけどな。

「言ったらダメでした?」
「わ、分からん」」
「隼一はそういう奴だったのか…」

男達がそう言っている中、当の本人はというと無言で俺に拳を突き上げてきていた…。俺は間一髪の所で逃げ、女を睨んだ。

「な、何するんだよ!」
「最近の奴は…礼儀を知らないわけ?」

今、拳を俺の顎に入れようとした人に言われたくないんだけど…。
しかも、今、俺の横で風を切る音がしたよ…?当たってたら、死んでたかも…。

「そ、そんな目で見ないでよ」
「はぁ?」
「二人とも落ち着いて…。ここはトランプゲームをしよう」
「トランプゲーム?スピードとかか?」
「違うよ。ポーカーだよ」
「へ〜。良いよ。ただし、全員でやってくれよ」

今時、部活動でポーカーゲームするなんて珍しいな。というか…この部って本当に何の集まり何だ?トランプゲームをする部…かもしれないな。

「じゃあ、いきますか」

部長らしき人のその一言でポーカーをし始めてから、数分後…。

「これは…」
「ミラクル?」

なんと、あの女が一番点数が高かった。次いで、俺が二番目。点数の差はたったの一点だった。
なぜか、他の奴らまで目を丸くしていたという事は、女が勝ったのは何かの間違いかもしれない。

「近藤君…すごいね。札運がたまに強い笹井先輩に一点差になるなんて…」
「いや…その前に熟練の俺達が負けてるってどういう事だよ」
「正弥に勝ったから良いや」
「どう?もう、私に逆らわないでよね」
「…まぐれで勝ったぐらいで意地張らないでくれよ」

どうやら、この人だけは俺と馬が合わないみたいだ。でも、嫌いじゃない。ポーカー、俺より強い人なんていないと思ってたのに、1点差でも俺を超えた人がいる。それだけで、興味は湧く。

「先輩らしく大人しくしててくださいよ…」
「…はーい」

部長らしい人がそう言うと、先輩は大人しくなった…。しかも、何か分からないけど、顔がほててってるみたいだ。もしかして、部長らしい人の事…好きなのか?前から、こういうのはよく分かってしまう方だから、間違いはないはずだ。でも、そうなると…この2人…。

「近藤君。これ、書いてくれる?」

俺がぼーっと考え事をしていると倉石はそう言いながら、俺に入部届けを渡した。

「書いても良いけど書くもの持ってないよ」
「…じゃあ、先輩として、私が貸してあげる」
「…どうも…」
「…あ!」

俺にそう言って、ペンを渡そうとすると、どこかに足をつまずかせたみたいで、そのまま俺の胸の上に倒れこんできた。

「…わざとやってんの?」
「な、なわけないでしょ。バカ」

真っ赤な顔をして俺の胸から起き上がった。
…こう見ると、黙ってれば可愛いのにな。部長らしい人には勿体無いくらいに。俺に振り向かさせてみたい…な。
俺は足元に落ちたペンを拾うと入部届けに名前を書いた。

「俺、近藤隼一です。これから、よろしくお願いしますね。笹井先輩」
「う、うん…」

この部活…よく分からないけど、この人に逢えたからラッキー。
< 9 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop