たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「竹原、よく分かったよ。たしかに、僕もちょっと興奮していた。こんな状態で亜紀に会っても、お互いに気まずくなるだけだね」


「お分かりいただけましたか。ありがとうございます」


「うん。ところで、亜紀が荷物を忘れていてね。それを渡したかったから会いたかったんだよ」


「そのような理由でしたか。でしたら、大変失礼いたしました。知らぬこととはいえ、山県様にかなりの暴言を吐いたような気がいたしますので」



そう言いながら、雅弥は惟に対して深く腰を折る。もっとも、口ではそう言っていながらも彼がまだ惟のことを許していないのは明白。彼にすれば、婚約者であるということを盾に取った惟の行動が許すことができないからだ。

だが、たとえそう思ってはいても惟が山県という名を持ち、一條の親族に連なる相手なのも事実。そして、そうである以上、彼が折れてきたからには雅弥もそれなりの対応をしないといけない。

それが分かっているからこそ、彼は惟に対する態度を変えることしかできない。もっとも、それが本意ではないのだろう。顔にはいつもと同じように微笑が浮かんでいるが、貼りついたようなそれ。そのことに気がついた惟は、仕方がないというような声を出していた。



「本当に君って有能なんだね。でも、自慢のポーカーフェイスも崩れているよ。それだけ、君にとっても亜紀が大事なの?」



惟の声に自分がどんな顔をしているのかということに気がついたのだろう。スッと視線を下げながら、雅弥は彼の声に応えている。



「当然でございましょう。お嬢様は一條家の令嬢なのですから。わたしにとって、誰よりも大事で大切な方であることに間違いございません」
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