たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
「そうだったね。野暮なこと訊いた。とにかく、今日は帰る。亜紀にカバンは渡しておいて。明日も学校だろうし、ないと困るだろう」


「左様でございますね。お心遣い、ありがとうございます」


「うん。それから、亜紀が落ちついたら連絡くれない? 彼女とゆっくり話もしたいし、今日のことちゃんと謝りたいから」


「かしこまりました。それではお見送りさせていただきますので」


「かまわないよ。今は亜紀のこと、お願いする。僕には会ってくれなくても、竹原になら会うんじゃない? だから、彼女の様子を見ておいて欲しい。いろいろとあったみたいだから」



そう告げると惟はその場を後にしている。もっとも、その後ろ姿はいつもの雰囲気ではない。亜紀に拒否されたということがかなりのショックになっているのだろう。普段であれば自信に満ちた足取りも、どこか重いように感じられる。

だが、いつまでもそのことを気にはしていられない。今は亜紀の様子を確かめないといけない。そう思う雅弥は、改めて彼女の部屋の扉を叩いていた。



「お嬢様、落ちつかれましたか? お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」



もっとも、普段の雅弥であれば遠慮せずに中に入っているだろう。だが、今の亜紀の精神状態が普通ではない。そのことを感じている雅弥は極力、彼女を刺激しないようにと扉を叩く。

しかし、いつまでたっても返事がない。そのことに微かな不安もよぎったのだろう。彼は扉を開けると部屋の中に滑り込んでいる。



「お嬢様、どちらにいらっしゃいますか?」



部屋の中を見渡しても亜紀の姿が見当たらない。だが、出た気配はなかったはず。そう思う雅弥がもう一度、部屋の中を見た時、ベッドの上に影があることに気がついている。彼女がいたことに安心した彼が声をかけようと近寄っていく。
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