たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
あ、ここは病院なんだ。でも、どうしてこんなところにいるんだろう。

そんなことを思う亜紀の頭の中にはハテナマークしか浮かんでこない。そんな彼女の耳に聞きなれた声が飛び込んできていた。



「亜紀ちゃん、気がついたんだ。よかった。心配したよ」


「お、お兄ちゃん……」



ギュッと手を握られる感覚に思わず顔をしかめる。そんな亜紀の頭をポンと叩きながら優しい笑顔を向けてくる相手。

この声が兄である拓実であるのは間違いない。だが、いつもはニコニコと笑っている彼の声が不安に溢れている。そして、それを振り払うようにしっかりと彼女の手を握ってくる。

そのことが日常とは違うのだ、ということをはっきりと物語る。いや、こうやって病院のベッドに寝かされているあたりからして日常であるはずがない。

だが、そうなると亜紀の頭の中ではますます大きなハテナマークだけが生まれてくる。なにしろ、病院にいる理由というものに心当たりがないからだ。

怪我をした記憶はない。いや、制服のスカートが血で汚れたのは覚えている。だが、それは自分の血ではなかったはず。だとしたら、ここにいる理由などあるはずがない。

だというのに、自分はここで横になっている。そして、極度のシスコンでもある拓実が心配しきった表情でそばについている。これらの示すことは一つしかないだろう。

だが、体の隅々に意識を集中してみても怪我をしたという感覚はない。この場合、訊ねるべき相手は医師か看護師だろう。しかし、彼らがすぐにやってくる気配はない。
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