たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
案内された部屋は、内緒話ができるこじんまりとした部屋。向かい合うように置かれているソファーの一つに腰掛けた由紀子は、そう言いながら亜紀に詰め寄っている。

そんな友人の気迫に押されてしまった亜紀は、「え、えっと……」と言いながら、視線をあちこちに泳がせることしかできない。そんな彼女の姿に、由紀子はため息をつきながら、容赦なく言葉をぶつけていく。



「ねえ、亜紀。私たち友だちよね? だったら、ちゃんと説明してくれなきゃ。逃げちゃダメよ」


「に、逃げるって……わ、私だって、由紀子に話したいことあったんだもん!」


「だったら、さっさと話しなさい。で、あんたが話したいことってなんだったの?」



そう言い切られると、亜紀はグッと言葉に詰まってしまっている。その時、扉を叩く音がしたかと思うと、ラ・メールのマスターが姿をみせる。さすがにこの状況で問い詰めることもできない、と思った由紀子の口が止る。そのことに、亜紀はホッと息をつくことしかできなかった。



「お嬢様方、これをどうぞ」


「え? でも、注文って何もしてませんよね?」


「ええ。これはわたしからのサービスです。今までも山県様が女性とご一緒だったことはあります。しかし、あのようにおっしゃったことはございませんでしたからね。ですので、わたしからのささやかなお祝い、ということで」



そう言うと、彼は持ってきた紅茶を置く。そのマスターの告げた言葉に、由紀子が異様に反応しているのが分かるのだろう。亜紀の表情が一気に強張っていく。そして、「ごゆっくりどうぞ」という言葉とともに彼が姿を消したとたん、由紀子の容赦ない言葉の雨が降り注がれてきた。

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