【番外編】ロマンティックに抱きしめて。~ドキドキを貴方へ~

モヤモヤと込み上げた不安を必死にかき消し顔を上げると、紺色のマフラーをした先生がニコニコとした表情で歩いてくるのが見えた。

グレーのコートに、スラッと伸びた足。
そして、何度見てもドキッとさせられる笑顔。

彼の横を通り過ぎる女性がチラチラと彼にピンク色の目線を向けている事に気づいてしまうけど…。

そんな事は一切気づきもしないその存在は、今にも飛びつきたくなる程の満面の笑みで、私の前でその足を止めた。



「待った?」

「ううんっ!今来たとこっ!」



…なんて嘘。

本当は待ち合わせの30分前には到着していた私。

同じ職場で毎日顔を合わせているのに、久しぶりのデートという事もあっていてもたってもいられなかった。


そんな恥ずかしい事に気づかれたくなくて。

必死に笑顔を作ったのに…。



「…へ?」

「…嘘つき。」



フワッと感じた体温。

その頬を覆う温かさに、一瞬でドキッと心臓が騒ぎ始めた。



「こんなに冷たくなってるじゃん。」

「…こ…これは~…。」



どどど…どうしよう…。



今にもキスしちゃいそうなその距離に、更に鼓動が加速する。

街中で、しかもまだ大勢の人がいるこの時間帯。

先生の背中越しに見える人々が皆、コチラを見て頬を赤らめてるのが分かった。


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