自殺志望者
第1話 真冬


2007.12.28

 初雪が降った。

 積もった雪を踏むと、ざくざくと軽快な音がする。

 時刻はもう真夜中で月明かりで雪の白さが反射する。

 眩しいほどではないけれど、なんだか嫌だった。

 ちらほらある家の電灯はもうほとんど消えていて、
 
 数少ない街頭の怪しい橙色の光と月光だけが頼りだった。

 ここは人口密度の高い都会ではないから、夜中になるとすれ違う人もいない。

 因縁かけてくる酔っ払いもいない。

 臭そうなデブと一緒に手を繋いでいる気持ち悪い援交少女もいない。

 田舎は静かで、夜は闇で覆われていた。


 もうどうでもよかったんだ。

 疲れてしまった。

 生きることに。

 幸せという物がなんなのか、本当にあるのかさえもうあたしには判らなかった。

 
 町を抜けると、海が見えた。

 奥のほうにうっすらと見える灯台は昔のように漁船を導く光など出してはいない。

 導かれる漁船もいない。

 あたしが5歳だった頃には海は漁船で賑わって、あの灯台も綺麗な白色の光で

 深い蒼の海を照らしていた。

 今は漁業も潰れて灯台はそれっきり自分の仕事に終止符を打った。


 海にはもってのほか誰もいなかった。

 ただ、真冬な為に吹く風が頬をいてつかせる。

 …寒い。

 だけれどあたしは、躊躇せず海のすぐ近くにある崖の先まで上った。

 
 下を見下ろすと、深い深い色をした海が見える。

 まるで大きな口をぽっかり開けるような、そんな恐怖感があった。

 海はこんなに壮大で大きいから、たった独りのあたしはまるで蟻んこみたい。

 そして海は、あたしをやさしく包み込む砂地獄のようで。


 あたしはこれから、砂地獄に身を投げるつもりだった。
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