御劔 光の風3
少しでも離れていたくない、二人の間に空気も元素でさえも入らないほど近付き感じていたい。両手に力をこめてお互いに強く抱きしめあった。

この苦しさは呼吸じゃなく心、ただそれを埋めたくて強く強く抱きしめる。

言葉を発する余裕など何もない。自分の感情が少しでも落ち着かない限り頭はもう働かなかった。

名前さえも呼べないほど。

光の泡は徐々に輝きを増していく。もう時間はないのだと彼女自身が訴えているようで胸をしめつけてきた。

「ナル。」

名残惜しむように愛しさをこめて名を呼んだ。その声はナルの耳に優しく響く。

やっと息ができるような感覚に愛しさが満ち溢れ涙がこぼれた。愛しさは切なさに似ている。それを身体の持つ感覚全てで感じていた。

「ハワード。」

涙で声が掠れたが彼女の想いに答えてハワードはより強くナルを抱きしめ名前を呼んだ。

「ナル。」

さっきよりもハッキリと、強く名前を呼んだ。

耳に心地よく響く声に目を覚ます。自分の名前はこんなに綺麗な音だろうか、こんなにも胸を高鳴らせるものだったのか。

「ナル。」

名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいものだと改めて知った。それと同時に淋しくもなる。ハワードの肩越しに見える自分の手は光の中で姿を不確定にし、もう輪郭さえもない。

分かっていた事だった。自分にはもう確かな身体がない、でも彼は生きている。

自分は消えてしまう。

最後の別れと。最後に一目会おうと思い来ただけなのに、これが孤独というものなのだろうか。離れるのが辛くなる、自分が消えるのが恐くなる。

「ナル。」

もう彼の声を聞く事が出来ない。苦しい。こんな気持ちになるなんて想像もしなかった。まさか自分の心がこれほど大きく揺れ動くなんて。

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