御劔 光の風3
淋しさや孤独感でつぶされそうになり、これ以上傍にいたら未練が強く残るだけだと怖くなった。こんな気持ちになるなら来るべきではなかった。

渾身の力を込め、ナルは勢い良くハワードを突き放した。

目の前には同じように年を重ねたハワードがいる。何十年も前、この城で出会い自然と引かれあった。若き頃より力の強さを認められ占者としての最高位でもある王室付き、国付き占者として活躍していたナル。下級の兵士から死に物狂いの苦労を重ねて今の地位を得たハワード。

あんなことが無ければ二人の今の姿はないだろう。

お互いの気持ちを伝える事も出来ず、ただ国の為に働き続けてきた二人。自由になってもいいと再会した夜に覚悟をした。次にまた自分の気持ちを曝け出せる時が来るのだとしたら、それはどちらかの命が尽きる時なのだと、そう感じていた。まさに今がその時なのだ。

こうして自分の心に正直に抱き合い求めてしまった今、もっと早く素直になっていればと悔やんで仕方がない。自分の身体が在るうちに声にして伝えられていたら、きっと何かが変わったのかもしれない。

きっとカルサもデルクイヤも、許してくれただろう。

頭の中で余計な考えが巡っていく。今はただ愛しくて手放さなければいけない苦しさが辛い。しかし目の前のハワードを見て思い出す。

それは自らが選び進んできた道、運命なのだと心の中で繰り返した。例え命を落とす事になっても構わないと覚悟を決めて占ったのだ。

今ここに、ハワードに会いにきたのも自分で選んだ事なのだ。

少しずつ冷静さを取り戻しナルの涙も引いていった。どんなに辛いか分かっていて会いにきた。どれほど未練が残ろうとも、それでも会いたくてここに来た。

最後に一目でも会いたかったから。

「どうせなら、来世で結ばれるかどうか占っておけばよかった。」

恥ずかしそうに笑うナルには覚悟さえ感じられた。ハワードは何も言えず、ナルから目を離さず静かに首を横に振った。もうすぐいなくなる、それを拒むことしか出来ない。

ナルの形を忘れないように彼女の髪を、頬を伝うように撫でる。彼女の目にもう迷いはなかった。道は一つしかないのだ。

ハワードの中でも懐かしい思い出が次々と過る。そう、彼女はいつも頑固で自分の意見は決して曲げたりしなかった。何度もぶつかり、事、カルサに関しては幾度となく対立したものだった。

それは彼女がいつも人を想い考え抜いた結果の行動と分かっていたから、説得するのにもそれなりの時間と理由と労力が必要だった。今回もそうなのだろう。

命を落とすなど、どれ程悩みぬいたか想像も出来ない。きっとそれは優しさだけでは成り立たない。

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