御劔 光の風3
「見える。」

あの時、カルサと会話をしていたのはついさっきの出来事なのにサルスは半分も思い出せない。忘れたというより、会話していた時点で何度か意識がなかったと言った方が近い。

自分の知らないところで自分が操られているような感覚がしてたまらなかった。

「聞こえる。」

一時的に記憶がないのはきっと疲れからだろうと考えていたのは数年前の話だ。しかし徐々にその間隔が長くなり、気付けば自分の行動を思い出せない事が増えていた。

病気なんだろうか。

初期状態は医師にもかかったが、やはり疲れだろうと言われた。目まぐるしく過ぎる毎日に次々起こる予期せぬ出来事が重なって振り回され、気付いた時にはさらに症状は重くなっていたのだ。

「感覚もある。」

カルサがいなくなる。そんなの分かり切っていた事だろう。

その為に今までやってきたんだ、いつでも代われるように変われるように。

「…くそっ!」

まさか自分が、こんな事になるとは思ってもいなかったから。

「これが俺の運命か。」

偉大なる王は消え、その後継ぎである自分の命も短いだろう。王国の行く末が危ぶまれるのは目に見えていた。

片目だけの視界は不安定で、その不安定さが今の自分そのものを表しているようだ。我ながら良い例えだと口の端で笑った。

こんな視界の悪さで今以上の国を作れる訳が無い。

でもやらなければいけない事だと分かっていた。悔しくても辛くても、泣きたくても嘆きたくても、どんなに投げ出したくてもそうする訳にはいかないのだ。

目を逸らせば国は見えなくなる。涙で視界が揺らげば国は見えなくなる。座り込んでしまえば視界が悪くなる。嘆いている間に国は滅んでしまう。

投げ出せば、その瞬間に国は消えてなくなるだろう。多くの尊い命を巻きこんだ行く末は想像するだけでおぞましいものだ。

片方しかなくとも自分の目をしっかりと開いて、両足で立ち、全身全霊かけて国を治めなければいけない。この命尽きるまでもがきながらも戦い続けるしかないのだ。

それがきっと、運命なのだから。

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