御劔 光の風3
「…フフッ。」
思わず笑みが零れ、その声が微かに響いた。
靴音を響かせながら歩く身体はいつもより足が軽い。
サルスは微かな笑みを浮かべながら一人廊下を歩いていた。人通りの少ない物静かな空間は、まるで彼自身が作り出したかのようにサルスを包み込む。
だが不意に足元がふらつき、サルスは体勢を大きく崩して壁に寄り掛かった。鈍い音がして、暫くサルスはそのまま動かなくなる。
やがて小さな笑い声が響くと彼の肩が震えだした。ゆっくりと壁に体重を掛けたまま体勢を変え、背中を壁に預けて天井を仰ぐ。
「…ハハハ。」
掠れた笑い声を発しながら足で踏ん張り背中を逸らすようにさらに壁に体重を預けた。本当なら座り込んでしまいたい気持ちを堪えて彼は立っている。
窓の向こうに広がる空はうっすらと雲がかかって景色をも曇らせていた。そういえば最近この国では真っ青な空を見ていないような気がする。
「人は変わる。国も変わる、か。」
擦れた声で呟いた言葉は景色に溶け込むように消えていった。力の無い表情、きっともたれかかる壁がなければ立つ事も出来ないだろう。
「所詮こんな物か、俺の存在は。」
自分で放った言葉が突き刺さる。
答えを求めても何も返ってくるはずが無いのに、その目は助けを求めていた。早急に差し伸べられる手を懇願しているのにその兆しは少しも無い。
意識にぼんやりと入ってくるのは今、その目に映る景色だけだ。
カルサがいなくなる。
その言葉が頭の中を支配していた。
惰性でそっと右手で右目を覆ってみる。視界は半分。ここ最近ずっと繰り返している動作に身体がもう無意識に動いていた。