君の『好き』【完】
私の目の前に差し出された、
大きな手。
軟膏を少し指に取ると、
関節の太い指を持って、傷口にそっと塗りつけた。
「なんでそんなの持ってんの?」
吉井くんの声って、低くて優しい声だな......
あ、そういうことじゃなくて。
「あのね、私......よく転ぶから。
お母さんに、持たされて」
ぶっと吉井くんが噴き出して笑ったから、
持っていた吉井くんの指が揺れた。
「そんな笑わなくてもいいのに.....」
口を尖らせた私を見て、吉井くんはもっと笑い出した。
「そんな転ぶの?」
「う、うん」
吉井くんの指から手を離して、
絆創膏の裏紙を剥がした。
「ほんとかわいいな、うさぎって」
「う?うさぎ?えっ?」
絆創膏を持って首を傾げた。
「え?名前、うさぎだろ?」
はあ?
「吉井くん、違います!
私、うさぎじゃないです!
う【ざ】き!宇崎鈴!」
吉井くんは「えっ」と少し驚いてから、
「まあいいじゃん」と笑った。
「よくない!」
「いいじゃん、ちっちゃくてうさぎっぽいから。
な、うさぎ」
えぇぇー!!!
「絶対に嫌なんだけど!その呼び方!」
「じゃあ、うさぎちゃん?」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「じゃあ.......鈴?」