ツンデレくんをくれ!
幸先悪いなと呟いてから一週間ほど経った時だった。


「飯田、さん」


その日は、部活が終わってから部室で一人でぼけっとしながら今日の反省をしていたらすっかり帰りが遅くなってしまった。


女子があたし一人しかいない日は、部活が終わると決まって部室にしばらく籠る。


だから、あたしが着替えて部室を出た時、男子の部室はもう真っ暗で、誰も残っていないと思っていた。


「……え?」


中出に声をかけられたのはこれが初めてだったと思う。


あまりにびっくりして、あたしはしばらく目をぱちくりとさせていた。


だって、中出が、あたしを個人的に呼ぶなんて。


志満ちゃんならありえた。前にも言ったように中出は志満ちゃんが好きだし、「加山さん」と呼ぶのを何度か聞いたことがあった。


あたしはあったかな。今まで中出に呼ばれたこと。


…………


………………


……………………


うん、ない。


少なくともあたしの記憶の中に中出に呼ばれた記憶はない。まあ、男子に呼ばれることも一日に一回あればいい方だし。


自分の名字が「飯田」であることを忘れかけるくらい呼ばれない。


何度も言うけど、志満ちゃんなら中出に呼ばれても何の違和感もない。


でも、志満ちゃんは今日急にバイトが入ったと言って部活を休んだ。ここにはいない。
(部活をしていると忙しくてバイトができないのではと思う人もいるだろうけど、テニス部はほぼ全員アルバイターだ。あたしも週2だけどコンビニ店員をしている)


でも今、中出は今あたしを呼んだ。「飯田さん」と、小さい声だけどはっきりと言った。


「ちょっと、いいすか……?」

「え……あ、うん」


敬語なんだ。


一週間前に中出を好きだと自覚してしまったから何だか嬉しい気持ちになってしまう。


でも、油断はいけない。あたしは一度小杉くんにばれてしまっている。あれであたしは男子にあまりよくない印象を与えてしまった。男好きと思われても仕方ないことをしてしまった(否定はしないけど)。


ここで再びあのようなことになってはいけないのだ。


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