ツンデレくんをくれ!
苦いコーヒーと甘い砂糖の混じった液体があたしの喉を潤していく。


いつのまにか喉が乾いていたらしく、あたしはあっという間にコーヒーを飲み干していた。


「ごちそうさま。ねえ、中出」

「ん?」

「今までどこにいたの? まさかずっと大学にいたわけじゃないでしょ?」

「ああ、二年生の男子でご飯行っとった。俺が隆を送ることになって、その帰り」

「ああ、なるほど」


小杉くんは大学の近くに一人暮らしをしていて、遠出をするときは誰かに大学まで送ってもらうのだ。


中出、車持ってるし。


「で、あんたは既に食べた後ってことか」


空腹のあたしは恨めしく中出をジロリと見上げた。


「だからこうして差し入れ持ってきたんやん」

「どーせならパンかおにぎりがよかったです」

「コンビニ寄る余裕なかったし」

「別にいいけど。もうすぐ終わるし」


あたしは教授へのメールに課題を添付して送信した。


よし、完了。


「よし、おーわり。帰ろう」


パソコンをシャットダウンして鞄を持って立ち上がる。


腹減って死にそうだからコンビニでご飯買って帰ろうっと。


「……家まで送ろうか」


中出がカフェオレを飲みながら爆弾発言を投下してきた。


「は?」

「日付変わったし。危ないし……」

「いいの?」


中出にも「女の子が一人で夜道を歩くのは危険」という認識は一応あるのね。


「あ、でもあたし、家近いし。コンビニにも寄るし」

「いいよ、別に」

「いや、でも、わざわざ徒歩五分のとこ送ってもらわなくても……」


なんだか照れ臭くて意地を張ってしまう。


そんなことを言ってもらって嬉しい気持ちはある。


女扱いしてもらってすごく嬉しいけどさ。


中出の運転している姿はすごく見たいけどさ!


でもなんか恥ずかしい。なんだか心臓がこそばゆい!


こいつがこんな優しい言葉をかけてくれるなんて、こっちが恥ずかしくなる。


葛藤の嵐でその場から離れられずにいたら、中出があたしを見て車のカギを見せた。


「じゃ、行くよ」

「……お願いします」


……中出に負けた。


中出の無言の圧力に負けた。


あたしは中出の後に着いて行くしかなかった。


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