ツンデレくんをくれ!
「……佐々木は、いいやつやと思う。正直、顔は彼女より佐々木の方がいいし」


おい、中出、さっそくあたしを盾に使ってきたな。


しかも悪い方で。


「しかもあいつ、うるさいし大食いだし大口開けて笑うしでかいし眼鏡だし」


おい、中出。お前言いたい放題だな。


お前は今まであたしをそんな風に思ってたのか。おーおーそうかい。


しかも眼鏡とか正直関係ねえだろ。眼鏡に謝れよ。


このまま中出に突っ込んでやろうかなと思った。矢先。


「あれ? 飯田さん、どうしたん?」


あたしを呼ぶ声が背後からして、あたしはびくっと肩を震わせた。


「りゅ、隆……」


あたしがかつて好きだった小杉くんだった。


もともと誰とでも話せる彼は、あの噂が流れなくなってからはあたしとも普通に話せるようになった。


そしてあたしは、彼のことを呼ぶときはテニス部のみんながそうしているように名前で呼んでいる。


そういえば、この子も工学部だったっけ。


「どうしたん? 珍しいね、飯田さんがここにいるとか」

「ちょ、ちょっと、よ、用事があって……」

「あれ、中出、今日も口説かれとるんけー?」


にやにやと笑いながら隆が中出に近づいていく。


隆も知っているのか、中出が佐々木さんに好かれていること。工学部だからか。

「なんだよ、隆。授業は?」

「休講になった」


あたしがちらりと中出の方に目を向けると、中出と目が合った。


やべっ。気付かれた。


このタイミングで中出に気付かれるとはなんとも最悪な状況。


隆が話しているのを見て、あたしはさっさとその場から離れた。



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