ツンデレくんをくれ!
「さあ、白状しろ。話したらカツ丼食わせてやる」


あたしと中出の間にあるのは、牛丼屋のカツ丼とカルビ丼。


ちなみに、カルビ丼はあたしの口に吸い込まれていく最中である。
  

「奈子さん、頼むから食べさせ…………」

「今の自分の立場わかってる? あたしの方が優勢ってことわかんない? 腹減ってるんなら、水で腹膨らましとけ」

「まじ怖え、奈子さん……」

「なんか言った?」

「いいえ、何も」


ちなみに、カツ丼もこちら側にあって、中出には取らせないようにしている。


要は、事情聴取だ。


「まさか、中出があんな風に思ってたとはね。姉さんは感心したわ」

「いつから俺の姉になったんだよ」

「で? 結局、佐々木さんは諦めてくれたわけ?」

「や、あれから隆が入ってきたから、あのままうやむやになって終わり」


あたしはカルビを箸で持ちながら左手で額を押さえた。


「隆、なんてタイミングの悪い……」


普段は空気の読めるいい子なのに。


全てはタイミングの問題か。


「てことは、佐々木さんはまだ諦めてないかもと。そういうことね」

「なあ、もういいやろ? いい加減食べさせろ」

「まだ。あたしが言いたいのは、あたしという盾の使い方が悪すぎるってことです」

「なんで」

「あのね、いくらなんでもあれは言い過ぎでしょ。確かにあたしは顔はよくないし、うるさいし大食いだし眼鏡だしコミュ障だしテニスもうまくないし、足も遅いし、ヒール履いたら中出と身長変わらないくらいでかいし、スタイルだってよくないけど、あそこまで言わなくてもよくない?」

「や、俺そこまでは言っとらんけど」

「ちょっとは褒め言葉が出てくると思ってたのに、まさかあんなボロクソ言われるとは……」

「や、だから俺、そこまで言っとらんって」

「じゃあ、あたしも告白されたら言ってやろうかな。あたしには、彼氏がいるんです。愛想は最悪で、目は細いし肌は黒いし身長も平均並だし、なのに茶髪でイケメン気取りで、近寄りがたくて話し掛けたらなんで話し掛けんのって顔して睨みつけるし、彼女のことボロクソ言う彼氏がいるんですって」

「完全に悪口やんそれ。しかも、俺、平均以上は身長あるし」

「いくつ?」

「175」

「うっそ。見えない」

「お前に言われたくない。いい加減食べさせろ。まじ死ね」

「それが人に物頼む言い方か、あ?」

「うっさい。黙れ」


中出が素早くあたしの前からカツ丼を奪って食べ始めた。


あたしがあっとも言わずに奪われたから、なんだか悔しい。


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