凪とスウェル
自分の立場になって初めて、湯本さんの気持ちがわかる気がした。


湯本さんはあの時、隆治に告白して今の関係が壊れるのが怖いと言っていた。


もし隆治が、あたしの“好き”を受け入れてくれなかったら…。


そうしたら多分、もう一緒に学校に行くことも、配達のついでに家に上がることも、休日に会うことも、初日の出の約束でさえも、全部無くなってしまうんだろうな…。


だったら言わずに、今の男友達のような関係の方がいいような気がする。


「ごめんね。

あたし、みんなにえらそうなことばっかり言って。

そう簡単に告白出来たら、誰も苦労はしないよね」


あたしがそう告げると、ハルはクスッと笑った。


「私、すずちゃんのそういう素直なところが好きーっ」


そう言って、あたしの腕に絡みつくハル。


あたしもクスッと笑って、ハルの頭に自分の頭をくっつけた。


隆治を失うくらいなら、男友達でもいいや…。


今でもあたし、充分幸せだもん。


薄暗い冬の空を眺めながら、あたしははぁと長い息を吐いた。
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