凪とスウェル
『すず…』


隆治の声が、耳に触れた。


すず、と。


あたしの名前を呼んでくれた。


たったそれだけのことなのに、胸が震えていた。


「な…に?」


またしばらく長い沈黙が続いた後。


隆治は、すぅと大きく息を吸った。


『もう、電話するな…』


え…?


今、なんて…?


「隆治…?」


うそ…だよね?


聞き間違いだよね…?


「ど…うして…?」


隆治。


あたし、今隆治のすぐ近くにいるんだよ。


ずっと会いたいって言ってくれてたでしょう?


なのに、どうして…?


どうして…っ。


『もう…。


俺のことは、忘れろ…』


「りゅ、うじ」


不恰好な声が出てしまう。


「いや。

うそだよね?

うそだって言ってよ!」


思わず叫んだけれど。



『……さよなら』



ただ、それだけ言って。



携帯は切れてしまった。
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