凪とスウェル
隆治は午前のフェリーで出発するので、朝食を食べると、すぐに帰り支度を始めた。


帰り際、おばあちゃんはひどく寂しがって、目に涙を溜めていた。


そんなおばあちゃんに隆治は、また来るからと言った。


本当に来るつもりがあるのだろうかと内心思ったけれど、玄関で泣くおばあちゃんを励ます隆治は、とても優しい瞳をしていた。


坂を降りて軽トラに乗り込むと、あたしは隆治をフェリー乗り場まで送って行った。


道中、特に会話らしい会話はなかった。


自転車だと結構かかる距離も、車だと早くて。


あっという間にフェリー乗り場に着いてしまった。


隆治がシートベルトをカチャリと外す。


すぐに車を降りるのかと思いきや、隆治はしばらく車に留まっていた。


窓から海を眺めてみると、フェリーがちょうど島に到着するところだった。


「なんか…、思い出すね」


長い沈黙を破るように、あたしは声を発した。


あたしの言葉に、隆治がチラリとあたしの顔を見る。


「思い出すって。

もしかして…。

俺が東京に行った


あの日のこと…?」
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