凪とスウェル
隆治の問いに、あたしはコクリ頷いた。


あの日もこうして、隆治を見送った。


それがまた再現されるようで、胸がぎゅっと苦しくなった。


「でも、すず…。

あの時とは違うだろう?

大学が始まれば、すずはまた東京に来るんだから…。

すぐに会えるよ…」


「隆治…」


「メルアドも交換したし、メールするよ。

昔と違って、スマホ打つのは速いんだ、俺。

電話もするしさ」


また、そんなことを言って。


あたしをドキドキさせる。


もう電話するなって言われたあの日の事は、夢だったんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。


なんだか複雑で俯いていると、隆治がそっとあたしの左手を取った。


その感触に、トクンと心臓が音を立てた。


「じゃあ、な…。

また東京で…」


大きな手に包まれた自分の手を見ながら、あたしはコクンと頷いた。


隆治はゆっくりあたしの手を離すと、ガチャンとドアを開けて、軽トラから降りた。


隆治はにっこり笑うと、そのままフェリーへと向かって歩いて行った。


その後ろ姿をしばらく見ていたけど、あたしはエンジンをかけ、フェリー乗り場を後にした。


4年前のように、小さくなっていくフェリーをじっと見送ることは。


今のあたしには、とても出来そうになかった。
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