凪とスウェル
「あの…。大変申し訳ないのですが、ここの仕事を辞めさせていただきたいんです…」


声に出した途端、身体中がカーッと熱くなった。


ズバッと結論から話した。


回りくどい言い方は好きじゃないし。


これこそが、俺の一番の願いだから…。


少し前かがみだった師匠が、ふっくらとした両手を合わせながら、背もたれにもたれた。


師匠の表情はあまり変わらなくて、一体何を考えているのかさっぱり読めなかった。


「それは、どうしてかな?」


抑揚のない聞き方だった。


それがかえって俺を緊張させたけど、俺は意を決して話し始めた。


「好きな女性がいます…。

ずっと、その人のことだけ思っていました。

その人は、遠い瀬戸内海の島に住んでいます。

俺は、その人のいるところへ行きたいと思っています…」


ゆっくり、力強く。


俺は心を込めて、言葉を繋いだ。


師匠は少し口を尖らせると、なぜかほう…と呟いた。


「隆治君、好きな人がいたんだ…」


師匠の質問に、俺は「はい」と頷いた。
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