凪とスウェル
退院したと言っても、すぐに仕事に復活出来るわけじゃないから。


師匠は朝の仕込みには顔を出さなかった。


いつものように朝一で作るパンを作り終えて、ホッと一息ついていると。


私服姿の師匠が事務所に顔を出した。


「おはよう、隆治君」


「おはようございます。

無事退院出来て、良かったですね」


「うん。今回も迷惑かけて悪かったね。

一人で大変だったろう?

風邪ひいて熱を出したそうじゃないか」


「はい、そうなんです。

お店を開けられなくて、すみませんでした…」


俺はぺこり頭を下げた。


「人間なんだから、風邪を引くことくらいあるよ。

そんなこと、気にしなくていいんだよ」


師匠は柔らかく、にっこりと笑った。


「あの…、師匠」


「なんだい?」


「大切なお話があります…」


「話…?」


「今、してもいいですか?」


「うん。もちろん」


師匠はそう言うと、俺の向かいの椅子にゆっくり腰掛けた。


俺は一度大きく深呼吸すると、真っ直ぐに師匠の目を見つめた。
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