凪とスウェル
「ねぇ、湯本さん」


「え?」


あたしは彼女の目を真剣に見つめた。


「もちろんあたしが便を変えてもいいし、他の席に一人で座ってもいい。

でもさ、そんな回りくどいことしなくてもさ、思い切って告白してみたらいいんじゃないの?

彼氏彼女になっちゃえばいいじゃん」


美男美女だし、お似合いなんじゃない?


「そ、そんなの無理だよ…」


「えー。湯本さんほど可愛い子が、何言っちゃってるの?」


あたしがあなたの顔に生まれてたら、バンバン好きな人に告白するけどね。


「だって、自信ないし。

私、少しずつ頑張ったの。

毎日話しかけて、やっと仲良くなったのに、告白した途端話せなくなったら、そんなのつらいもの…」


湯本さんは目をうるうるさせている。


ふぅん。


そんなもんなのかね?


「もちろんいつかは告白したいけど、もう少し頑張ってからにしたいの。

だから…、協力してもらえる?」


協力って言えば聞こえはいいけど、要するにあたしが邪魔だって遠回しに言ってることに、本人は気づいてるのかしら?


「いいよ、わかった」


「ありがとう。すずちゃん」


あたしの言葉に、湯本さんは嬉しそうに笑った。


その笑顔に、なんだか胸がチクリと痛んだ。
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